金木犀の香り。

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金木犀の香り。

あぁ、お爺ちゃん…この間まで…あんなに元気だったじゃん…どうして……。 ーーーー 「……はぁ、」 憂鬱だ。何も楽しくない…というか、楽しめる気がしない。 一限なんだっけ…数学?古文?自習とかだったらいいのに。 先日、祖父を亡くした。 俺が小さい頃から良くしてくれていて俺はお爺ちゃんが大好きだった。お爺ちゃんもそれは同じだったと思う。 突然病に倒れてそのまま帰らぬ人となってしまったのが二週間前のこと。 大好きだったお爺ちゃんにもう会えないかと思うと本当に悲しくて悲しくて、酷く心に傷を負った。 そして三週間目に入る今日、俺は実に二週間ぶりに高校へと登校している。 公立の普通科高校。 俺はその高校…月代(つきしろ)高等学校に通っている、ただの“人間”。 そこの角を曲がれば件の月代高校の真新しい校舎が見えてくる訳なんだけ… ……ど? 目の前に立ち塞がるのはめちゃくちゃ可愛い女の子。それはもう超可愛くて華やか。 えっなに、俺なにかしましたか…? 「ねぇ君!すごく可愛いね!うちの生徒でしょ!何年生?!」 え、え? なになにドッキリ? 「エッ、アッいや…っ、2年ですケド…」 キョドって片言になってしまった…あぁ、もう少しスマートに対応できれば… 「2年?!びっくりー!同じ学年にこんな可愛い子がいたなんて知らなかった!何組なの?」 …テンションが高すぎてイマイチついていける気がしない… それに今は少し…1人にしてほしいのに。 「…F組です…」 「へぇ、全然知らないや!まぁこれから知ればいいわよね!私の名前はー」 「ちょっと!何浮気してんのよ!」 「えっ、う、浮気なんてしてないよ!ちょっといい匂いがしたから話しかけただけだって〜ごめんね!……じゃ、自己紹介はまた後でね。…あっまってよー怒らないでー!」 な、何だったんだろう今の… なんというか…極力関わりたくないような人種だ… 突然現れた女の子は突然去ってしまった。 気にしてるほど余裕もないし大人しく登校しよう… 「やっほー春樹!久しぶりだな!」 声をかけてきたのは吉川国光。特に仲のいいクラスメイトの1人だ。…勿論“人間”。 「吉川…うん、久しぶり。」 「なんか久々に見たけどさ、なんつーか…うーん、可愛くなったな?」 は? 何言ってんの? 「え…なになにどうした怖」 「いや、あからさまに引くなよ!なんかこう、ふわっとしてるつーか、なんつーか…とにかく、可愛い…?」 吉川はこてん、と首を傾ける。 いや引くだろ。友人が突然可愛いとか言い出したら。なんだろう、慰めようとしてくれて空回りしてるとか…? 「なんだよそれ…俺としてはかっこいい方が嬉しい」 「それは無理だな!うん!」 「なんで?!」 そんな馬鹿な会話をしていると教室に着いてしまう。 あぁ、吉川が普通に接してくれるのも…やっぱり優しいからだよね。 本当に有難いし良い奴だ。…馬鹿だけど。 「おっはよー!クラスの諸君!」 吉川が勢い良く入っていくいつもの光景。そして俺はその後を空気の如く… ぴり、 空気が張り詰めた。 俺が入った瞬間にクラスの半分程が俺を凝視する。 え、なに… …あ、そうか。俺結構長い間休んでたから… 「…え、と…」 「…あ!そうだ!今日から春樹が復帰するぜ!な!」 がし、と肩を組まれる。 「…あぁ、うん、みんな久しぶり…」 「よーしーかーわー。悪いことは言わないからその手離せ。」 「京介?…あれ、なんか…、なんでそんな怒ってんの?」 「は?いや怒ってはないけど…」 「…え、なんか怖い!よくわかんないけど怖い!…手は離さないからな?!機嫌の悪い悪党に春樹を渡すわけにはいかん!」 「お前悪党って…むしろ吉川の方が悪党だと思うぞ今の状況」 「ええっ?!」 なんで吉川が悪党なんだろう… 「…?」 「…あー。九重も九重だ。」 え、俺? 「……その“匂い”どうにかならないのか?すげぇよお前…」 は?! エッ…匂い?!く、臭い?! 昨日もシャワー浴びたしシャツもちゃんとクリーニングしてるのに…?! 「く、臭い?!吉川!!俺臭い?!」 「んー?どれどれ〜吉川チェーック!」 首筋を嗅がれると吉川の髪が肌に触れてくすぐったい。 「っふ、ははっ…くすぐったいよ吉川」 「お前達ほんとやめた方がいいぞそれ…」 相変わらず京介は何を心配しているのか分からない… あっもしかして俺の臭さに卒倒することを心配してるのか…?それだったら結構傷つく… 「ふっふっふっならばこの吉川様が!もっと擽ってやろう!わしゃわしゃ〜!」 「ひゃあ!?…あははっやばっ…ふふっ…待っ、あはははっ!」 「ほーれ、ここがええんじゃろ?」 「ふぁあ!そこ…!ぁっ、駄目だって!あははっ!ひぃ〜っ死ぬ死ぬ…!!ぅあ…ッ!」 弱い腰周りを擽られるともう駄目だ 「おい!」 京介に怒鳴られる。京介は“憑き物(つきもの)”だ。普通の人間と違って怒ると本能的に俺達人間は縮みあがってしまう。 「「えっ」」 というか、なんで京介そんなに怒ってるの…? 「…悪い、とにかくここではやらないでくれ…」 「えー、なんだよそれー…ま、京介怒ると怖いしいいや!やめる!あと春樹お前は臭くない!むしろめちゃくちゃいい匂いする!」 「それはそれで気持ち悪いからやめて。でも臭くないならよかった…俺匂うんでしょ…?京介には近付かないようにしとくよ…」 「いや、待て。絶対1人になるな。今日は俺が付いてる。」 「ええー?!矛盾してねー?!臭いって言っておいてそれはないだろ!」 確かに。なんか、変だ。 「そうだよ京介…臭いの我慢しなくたって別に…」 「…臭いとかそういうんじゃなくて…単に友人を守る為に言ってる。」 守る?何から? 「え、なんだそれ」 「え?!守られるって春樹まじで悪党に狙われてんのか?!」 「まぁそうとも言えるな。」 なんだよそれ…全然話が見えないんだけど… 「そうだ!臭い?なら消臭スプレー持ってるぜ!」 「ほんと?なんか匂うのやだし貸してもらおうかな」 「そんなの誤魔化しになるわけないだろ。こっちの方がよっぽど効く。あと…今日は俺から離れるなよ。」 京介が鞄から取り出したのは…御守り? 「なにこれ」 「御守り。とりあえず気休めでしかないし心許ないから1人で歩き回るなよ。いいな。」 真剣な京介の顔に気圧される。 「…う、うん…」 「京介だけなんかヒーローっぽいじゃん!俺も春樹守るわ!任せろ!」 しゅっしゅっとシャドーボクシングをする吉川は馬鹿で面白い。 「吉川ありがとう…けど何から守るの?」 「確かに。」 「…ここで話すのはちょっとな…また後で話す。」 ーーーー その日も程よく、そして適当に授業を受けた。 色んな所から熱視線を感じるのが気になるけどいちいち反応するのも嫌になるくらい…じろじろと見られる。 俺なにかしたかな… もしかして本当に狙われてたりして… こうも一日中見られると全く落ち着かない。中には俺を見てひそひそ話をする輩まで居る。 京介は何かを知ってるみたいだけど話すタイミングが図ったかのようにことごとく潰されて何も聞けなかった。 これはアレなのか?集団で虐められる前兆なのか…? お爺ちゃんを失った今そんなことをされたら確実に立ち直れない気がする… ……考えるほど嫌な方向に思考が飛ぶので考えるのをやめた。 視界に入る色々な目が嫌になるので放課後はさっさと帰る、そう決めて荷物を鞄に仕舞う。 朝の女の子に後でね…とか言われてたけど…あんな可愛い子が俺に何か用なんてあるわけないし、いいか。 よし、もう帰ろう。
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