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お前さんは現在153歳じゃ。
次に起きた時にそこには新たな登場人物がいた。
物語の進行をはやめる時には必ず新しいキャラクターが登場するものだ。
そして起きた時、やはりまだ真っ赤な部屋にいた。真っ赤な天井だ。
そして遠くの方で水の滴るような音がした。
そして、リンゴを齧りながらアインシュタインが現れた。
「おはようござい。どうだい? 坊ちゃん、ご気分は?」
「坊ちゃんはないでしょう? 僕ちゃんでお願いしますよ」
そのアインシュタインは左眉をあげてこたえた。
「ああそうかい。しゃあにゃーな。僕ちゃん。気分はどうだい?」
「気分ですか? 良いわけないですよ。頭に傘が刺さってるんですよ?」
「ホッホッホッ。ま、元気なこった。とにかく、そろそろまともな生活がおくりたくなってきたんじゃないのか?」
「ええ、できる事なら」
「できるさ。ただな、僕ちゃんよ」
「どうかしましたか?」
「いや、とにかく治すとしよう」
「ええ、とにかくお願いしますよ」
「よーし、任せときゃあて」
「で、僕ちゃんは一体どうしたら良いのですか?」
「何もせんでいい。じっとしといてくれ」
「わかりました。ただ」
「ただ、どうしたい?」
「退屈なんで、なんか音楽ぐらい聴きたいなぁ」
「そんな事かい? 何がいい? ベートーベンか? モーツアルトか? あるいはヤナーチェクか?」
「アラニス・モリセットがいいです。IRONICが聴きたいなぁ」
「何じゃい? そりゃ? おい! 奈津子! 奈津子! あらなすもりをかけてやれ」
「フフフ、アラニス・モリセット。 今となってロックもクラシックね。時間たくさんあるし、リピートでアルバム丸ごとかけとくわ」
「ありがとう。少しは気分がよくなりそうだ。ところであなたは?」
「わしはドクター赤米じゃ」
「アインシュタインじゃないんですね?」
「ん?」
ドクター赤米はあまりアインシュタインの容姿に寄せていることに触れて欲しくなさそうだった。左の眉を上げながらこちらを覗き見た。
「いや、あの、あ、ドクターあかごめさんですね。よろしくお願いします。で、その向こうの」
「ん? 何じゃ? 奈津子か? あれはわしの姪で奈津子じゃ。苗字が奈で名前が津子じゃ」
「え? 随分風変わりですね。で、ドクターは姪のことをフルネームで読んでいるんですか?」
「フフフ、ドクターの冗談よ。奈津子が名前、まだ伝えてなかったものね」
「ああ、冗談。そりゃそうですよね。じゃなきゃ」
「じゃなきゃ?」
「じゃなきゃ、何だっけ? なんか言おうとしたんだけど、急に思い出せなくなった。いやだな? 歳だな」
「歳も何もお前さんは現在153歳じゃ。わしよりもずっと年上じゃ」
「え? あぁ、そうか100年も寝ていたんだものな。ドクターあかごめさんは何歳なんですか?」
「内緒じゃ。ファファファファ!」
「フフフ、ドクターたら面白い」
「じゃあ奈津子さんは?」
「内緒よ、フフフ」
「アハ。あぁそうですか。じゃ、まぁ仕方のない事ですね」久しぶりに笑った。何年ぶりかに笑った文字数はたった2文字だがこれも充分な進歩だ。
「さて、そろそろもう一度眠ってもらう」
「フフフ、おやすみなさい、僕ちゃんさん」
「おや」・・・すみなさい。
何をされたわけでもないのに僕ちゃんはいとも簡単に寝かしつけられてじった。音楽は夕日のように瞼の裏側に沈んでいった。
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