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「えーと、期末テストっていつだっけ?」
「確か、来月の頭くらい」
「勉強してる?」
「まだしてない」
吉岡さんの反応が急に早くなった。距離が近い所為だろうか。僕は今更、傘の下での距離感に気付いた。近過ぎる。僕はさっきの吉岡さんのようにもだつきながら言った。
「あの、歩いても良い?」
「いいよ。ゆ、ゆっくり歩いて」
二人並んだまま、屋根の下を出た。急に雨音が大きくなる。頭上にぱらぱらと絶え間ない音に、僕は吉岡さんが心配になった。狭くて体を動かせないので、横目で様子を見る。
「大丈夫? うるさくない?」
「……いいから、何か喋って」
怒ったような口調だった。僕はゆっくり歩きながら再度話題を探す。学校のことしか思いつかなかった。
「吉岡さんは部活入ってるんだっけ? 僕は帰宅部だけど」
「入ってない」
「んーと、明日の数学、僕当てられるかもしれないんだよね。吉川さんは数学得意? 分かれば教えて欲しいなあ」
「得意じゃない。苦手」
「えーと、えー……」
困ってしまった。これじゃ質疑応答だ。会話のキャッチボールの筈が、吉岡さんは受け取ったまま返してくれない。
「あ、そういえば吉岡さんの家って」
「聞こえる」
「え?」
「傘の下だと、よく聞こえる」
吉岡さんは目を丸くして僕を見上げた。湿気の所為か、髪が一筋、頬に張り付いている。僕は思わず立ち止まって吉岡さんを見詰めた。すると、彼女は勢いよく後退った。僕は慌てて傘を追わせる。
「ち、近いっ!」悲鳴に似ただみ声で吉岡さんは叫んだ。
「思ったより近いよね。しかも狭いし」僕はまた傘の下に並びながら言った。吉岡さんが端にいるので、濡れないよう傘を傾ける。それに気付いたらしく吉岡さんはそっと身を寄せてきた。またどちらともなく歩き始める。
「貴方、どうして私に声を掛けたの」不安そうな声だったが、どこか安心したような雰囲気もあった。
「どうしてって……」
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