声を聞かせて

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 いざ質問される番になったら僕は戸惑ってしまった。取り繕おうとしたが上手くいかない気がして止めた。正直に言った。 「吉岡さんと話してみたかったから、というか、声を聞いてみたかったから」 「何それ。意味分かんない」  よく考えると、何だかストーカーみたいで気味が悪い理由だなと僕も思った。幸い吉岡さんはそこまで不快に感じてはいなさそうだったので安堵した。 「僕、笠山春斗。好きに呼んでいいよ」クラスメイトになって半年経っていたが、自己紹介をした。名前を知っていた方が便利だろう。 「か、傘?」  吉岡さんは可笑しそうに言った。「笠山!」僕は訂正する。僕の必死さがまた可笑しかったのか、吉岡さんは笑い声を零した。 「笠山くん、家はどこ?」  住宅街を歩いていた。僕は見慣れた道を指差した。 「あそこ。吉岡さんはまだ先?」 「うん」 「じゃあ傘使っていいよ。明日とかに返してくれればいいから。手、出して」  吉岡さんは殆ど反射的に手を出した。僕がそこに持ち手を当てると、吉岡さんはぎゅっと握り締めた。 「笠山くんの傘……」  そう呟いてまた笑い出した。笑いの沸点が低いのだろうか。その声を聞いていたら僕まで釣られて少し笑ってしまった。傘が揺れて、笑い声が雨音みたいに反響する。 「じゃあ、僕の家ここだから。また明日!」  僕は傘を出て家まで走った。途中で振り返ると、ぽつんと立ち尽くす吉岡さんの姿があった。距離はそんなに離れていないのに、とても遠くにいるような気がした。雨の中、もう僕の声は届かない。あの狭い傘の下だけが僕と彼女が唯一繋がれる空間だったのだ。もっと名残を惜しめば良かった、少し悔やみながら僕は帰宅した。
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