声を聞かせて

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 テスト範囲のことと、吉岡さんのことを交互に考えていたら随分と気落ちしてしまった。快晴の空の下、僕は一人で家に帰る。  真っ青な空が嫌味にすら思えた。僕の心境を思えば小雨でも降らせて欲しいくらいだ。そうすれば、また、傘を持って……。と、僕はより気が沈んでしまった。昨日、吉岡さんと話さなければこんな気持ちにもならずに済んだのかもしれない。いや昨日のことは後悔していない。悪かったのは今日の行動だ。もっと気を使うべきだった、教室で話し掛けるべきでは無かった、後悔しても戻らない。謝れるなら謝りたかった。でも、一体いつ?どうやって?僕は彼女の家も知らないのだ。いつなら話が出来るのかももう分からない。  ……どちらにしても、こうしてくよくよしていても仕方ない。僕は沈んだ気分のまま、自分の頬をつねって無理矢理顔を上げた。またいつかチャンスがあるかもしれない。その時には――。 「えっ?」  目線を上げた先、自宅の前で、快晴なのにも関わらず傘を開いた人が立っていた。知っている傘だ。紺色の、地味な傘。胸がドキドキした。言葉にならない声が漏れる。 「えっ、あっ、ええ?!」  その叫びの所為か傘の人は僕の方を向いた。やはり吉岡さんだ! 影の所為か表情の無い吉岡さんと視線がかち合う。 「よ、よ吉岡さんっ!」  僕は咄嗟に頭を下げた。「ごめんなさい! 僕、もっと考えればよかった! あの、昨日みたいに話したいなって思ってそれでつい……」  ふっと視界が暗くなった。見上げると、僕は傘の下に居た。吉岡さんが近くで、眉間に皺を寄せている。 「声がでかい」 「え。ご、ごめん」 「それと、昼間のことだけど。私に、変に気を使わないで」吉岡さんは渋い顔で言った。「そういうの、嫌いだから」  僕は必死に頷いてまた頭を垂れた。 「はい、すみません……」  話し掛けたこと自体か、話の内容が悪かったのかは分からないがとりあえず謝った。今日一日謝りたかった気持ちをここでようやく発散出来て僕はほっとした。吉岡さんはまだ険しい顔をしている。
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