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幸せの王子様
「おい! これは一体どういうことなんだ!?」
「しぃーっ! ソウゲツ様、そんなに大きな声を出さないで」
ここは地中海に面したヨーロッパの小さな港町。その高台の方にある民家の軒先から、なにやら痴情がもつれた若い男女の張りつめた声が聞こえてくる。
「若い男女」とはいささか艶っぽく表現したが、彼らはヒトではない。ツバメという鳥類である。
長い燕尾が凛々しい男盛りのソウゲツは、いま自分の巣の前で三下のオスの胸ぐらを掴みながら激しい怒りに震えていた。
彼のつがいであるメスのツバメが、あろうことかこの若造とデキていたのだ。
丹精こめて作った巣は乗っ取られ、中には自分のものではない卵が5つ、お行儀よく並んでいる。
「なんてふしだらな女だ。信じていたのに浮気をしたな? こんなに卵をこしらえて!」
「だってしょうがないじゃない。アナタがなかなか帰ってきてくれないからアタシ我慢できなかったのよ。これでもけっこうモテるんですからね!」
「言い訳は無用! ここは私の巣だ。荷物をまとめてさっさと出ていってくれ!」
「そんなのムリよ。見て? この可愛い卵たち。冬が来る前にしっかり温めてあげないと死んじゃうわ」
自分のしたことを少しも悪びれないメスの様子にソウゲツは心底がっかりした。もはやこれまでかと愛想も尽きる。
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