予言

1/1
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ

予言

 電池が切れたようにクソ眠った。なんだかつまらない夢を見てしまうほどの熟睡だった。 「さぁ、みんな! 俺について来い!」  俺の名前は浅葱光一、またの名をニコチン太郎。JTマークの鉢巻にJTマークの羽織り、ただし羽織りの下は何故か制服のまま。 「フ……いいだろう、仕方ないから付き合ってやる。きび団子を寄越せ光一」 「ん」  犬マスクをつけたタケル。きび団子の代わりにホウ酸団子をくれてやったら、喉を押さえてのたうち回っていた。 「はーぁー。まじダルイんですけどー」  猿こと伊織、語尾下がりでまったくヤル気がない。不味そうだときび団子は捨てられた。 「まぁまぁ。みんなで力を合わせれば、鬼くらいきっと倒せるよ。ねっ、光一」 「……おう」  キジこと有紗、仕方ないのできび団子くれてやったら、何故か不思議そうに団子を見つめていた。 「ウフフ――いってらっしゃい光ちゃん。気をつけてね」  春子さんに見送られ、せっせと歩いて俺たちは岸辺までやって来た。そこで悪徳船頭のロンゲ野郎が待ち構えていた。忌まわしき総括のクソ野郎だ。 「クケケケ……いらっしゃい。ささ、どうぞこの船に乗ってくれ」 「泥舟じゃねぇか」 「しかしひとつ忠告しておくぞ光一。蝶野さんの言うことをそのままの意味で受け止めるなよ」 「おっさん誰? お小遣いくれる? いくらですかー?」 「泥船だねー」  問答無用でサンドバッグして成敗してやった。改心したクソ野郎はへへーと大仰におじぎして、この岸辺で一番いい船を寄越した。 「へへっ、快適だぜ!」  俺は胸がすく思いだった。海面を切って潮風の中を駆けていく船の先頭に仁王立ちしていた。 「フ――やるじゃないか光一。見なおしたぞ。さっきはなかなかの活躍だったな」 「意外。光ちゃんもやる時はやるんだ」 「うんうん。この調子で鬼もサックリ退治しようねっ」  みんなで拳を振り上げ気合を入れる。俺たちは友情の絆で繋がれた仲間なのだ。 「なぁみんな。この面子で、どこまでも旅して行こうなっ」 「フ――当然だ。我らは志を同じくする同志なのだから」 「いいよ! いくらで?」 「うん。みんなで旅し続けようね……」  しかしたどり着いた鬼ヶ島で待っていたのは、氷のように冷たい制服姿の少女――  俺たちは驚愕した。  鬼ヶ島の空が暗雲に覆われていく。馬鹿でかい鬼の金棒、広げられる赤の両翼。 「へぇ…………お前、私を殺したいの……?」  朱峰椎羅。  あははははははははは。  哄笑を上げながら地響きと共に巨大化していくその女に俺たちは絶望した。 †  ぺしゃんこにされた所で目が覚めた。クソのような夢だった。 「………………」  窓から顔を照らし付けてくる朝日。断固として朝だ。目覚ましを見ればご丁寧に、1時間目に間に合うような時間帯に目が覚めてしまったらしい。  夏休みの空くらいよく晴れている。  全身の疲労感はまるで消えてない。むしろ寝起きなだけこのまま腐って泥になってしまいそうだった。  俺の部屋の内装は、全面がコテージみたいな板壁になっている。通気性よし、冬もそれなりに温かい。 「……ねむ」  しゅぼ、と朝ニコチンを摂取する。灰皿は骸骨の口の部分。服装はスウェットだが風呂に入っていないことを思い出したので、シーツ剥がして洗濯機へぶち込み、自分自身も風呂場へぶち込んでシャワーを浴びることにした。  鼻歌はSUM41。  風呂を上がれば髪を乾かしながらニコチン摂取。その後シャウエッセン焼いて米と共にかき込んだ。ごくごく飲み干す冷たい麦茶の喉越しが心地いい。  食後にもニコチン摂取。起きた後、風呂入った後、メシ食った後、と行動の度にニコチンタイムが挟まれていてまったく我ながらヤク中で困る。  食器洗ってソファでくわえタバコしながらダレていると、なにやら面倒になってきた。見上げた天井にはDIR EN GREYのポスター。 「あー……」  サボるか? バックれて二度寝してパチンコでも行くか? そんな悪巧みをしていたら不意にテーブルの上からデスボイスが響き渡った。着信アリ。いらないモーニングコールだ。 「ったく、また有紗か…………あん?」  違った。表示されている名前は何故かタケルだった。 「おい。なんだタケル、こんな時間から」 『うむ、起きていたか光一。そうだろうそうだろう、実はな、俺もいまピーンと来たんだ』 「……あん?」  訳が分からん。理由は分からんが、電話の向こうでタケルがいつも通りドヤ顔してんのが目に浮かぶ。 『なぁ光一、昨夜は、アレか? 家に帰ったのか』 「ああ、さすがに夜遊びできる元気はなかったからな」 『で、帰って春子さんと話したか』 「ん? 話したが」 『昨日あった出来事を報告したんだな? 総括との一件も含めて?』 「ああ――何なんだよお前、新手の占いか何かか」  タケルは、最後まで神妙な態度を崩さなかった。 『いやいや。しかしそうか、話したか。成る程。了承した』 「だから、何なんだてめぇ。からかってんのか」 『学校で会おう光一。出来れば早く来い、遅刻なんてするなよ。じゃないとお前1人だけ事態に乗り遅れることになるぞ』 「…………あん?」 『武装は、ナイフだけでもいいから持ち歩いておけ。お前だって巻き添えで死にたくはないだろう? ではな。どうせ、すぐ早退することになるだろうが――』  ブツッ、ツーツー。  それきり断線したように通話は途切れた。最後まで訳が分からなかった。 「……何だ、オイ?」  不思議ちゃんかあいつ。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!