『本』の狩人(前)

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『本』の狩人(前)

 『狩人の話では、猪は夏から秋の初めにかけて、カリに着くという。カリは峰近い萱場の藪叢などのやや平坦な地を撰んで作った猪の寝床であった。  地面を長方形に穿って、その中には落ち葉や枯草を敷き、上にはやや丈の長い萱の類を橋渡しに覆うて、そうして出入りは一方の端からする。  カリはまた山の中原にもあったが、窪合などの湿地は避けたので虻や蚊の襲来を防ぐ目的からだと謂うたが、子もまたそこで育てたので、生まれて間も無い子猪が、カリの近くに斃れている事がある。  また肌に毛を生じさせない頃には、蚊や虻に刺し殺されるのだと謂う』  角川ソフィア文庫  『猪・鹿・狸』 著書:早川孝太郎  五十五ページ「九・猪の話」より抜粋。
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