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『本』を見つけるのはそれほど難しい話ではない。特に生活跡を残す事もないが、そもそもに彼等が見つかるのは比較的人里近い場所が多く、結構労せず見つける事ができる。
難しいのは、それをどのように、どれだけ破損を少なく狩るか、だ。
それでもあえて誘い込むのならば、ジンはインクを使う。
日の当たり辛い、かつ乾燥した場所。大きな木の下などが最適で、その地面にインクを巻き、近くの藪などで身を潜める。
そうするとどこからともなく『本』が集まってくるのだ。インクは上質なものであればあるほど、『本』を引き寄せる
―――たまに思う。『本』は一体どこからやってくるのか。居心地がよければ、獣の巣を利用する事もあるが、例えば実際の生物のように、そこで繁殖活動を行うわけでも無い。
いつだって、突然どこからか現れて、そうしてどこかへと消えていく。
「―――『本』は、いつだって人の傍にいますよ」
「?」
「それを人が勝手に『本』に定義を付けただけなんです」
少年の顔は、これまでになく大人びて見えた。
「少し、意地の悪い事を聞いていいですか?」
「どうした、突然」
少年はジンの猟銃を指す。
「その・・・意外と効率の悪い狩り方をされるのですね?
貴方の本屋には、結構な数の『本』の在庫があったと“クラウン”から聞きました。てっきり大量狩りをしているものかと」
「こんな田舎じゃ、本の売り上げはそれほど良くないんだ。自然、在庫も増える。生活が成り立たない場合は、都会に『本』を売りに行くさ。
こんな村では売れない『本』も、都会だと良い値が付く事もある
――それでも童話は売れにくいな。」
「需要、というものですか」
「それに大量狩り、とお前はいうが・・大量狩りの基本的な方法を知っているのか?」
『本』を大量に、一気に狩る上で一番効率が良いのは網猟だ。
一所に集まった『本』をまとめて網にかけてしまう。
「網猟は嫌いです」
「網の中で『本』が暴れるからな。――網に引っ掛けてページがボロボロになる――それでも得られる『本』の量や、内容の質狙いでいくなら十分利益が出る」
「大っ嫌いです」
ジンは少年の肩を叩いて宥めた。
「少年が今まで見てきた狩人は、大量狩りが主体だったか?」
驚いたように、少年がジンを見上げる。
「君が持っているノート、俺が話した事だけを書き記しているにしては、結構分厚かったからな」
きっとこの村を訪れる前にも、幾人もの狩人と会ってきたのだろう。
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