『本』の狩人(前)

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 ――やはり、あの馬車は道に迷って村に辿りついたらしい。  件の街道はたまに狼が出没する。遭遇したのはごくごく小さな群れでからしいが、馬がすっかり怯えてしまい、御者の命令も無視して大きく街道から逸れてしまったそうだ。  とりあえず行く先に村を見つけたので、立ち寄ってみた。・・・というのが真相のようである。  そこで一晩だけ村長宅で休んでから再出発、となれば何も問題は無い。  しかし昨晩ジンはその村長宅に呼びだされ、そうして引き合わされたこの少年に『本』狩りの様子を見せてやってくれなどと頼まれたのだ。  その間、彼等はこの村に留まるらしい。  ジンは突然の話に驚いたし、村長に対して不快を隠さず「否」の返事を告げた。  狩りは自然そのままの山に入る。故に危険をともなく事もあるのだ。  土壌豊かな山に生息するのは、鹿、ウサギ、貉にはじまり、猪や熊なんてものまでもいる。足元が不安定な場所も多いし、結構大きな崖もあるのだ。数年前、そこで一人の人間が死んでいる。  また、『本』の狩人が扱う武器は本物だ。狩人によって扱う獲物はそれぞれだが、ジンが扱うのは散弾銃であり、殺傷能力のある武器を扱う様など、年端のいかない子供に見せるものではない。  訥々と「否」の理由を口にするジンに対して、村長は「まあまあ」とずっと揉み手に猫撫で声。  さらに少年の斜め後ろにずっと佇んでいた、貴族風の青年がニコニコと。  「これ程気にかけてくださる御仁であられるのならば、『司書官』殿を預けるのに申し分ありませんな」  と、のたまったのだ。  青年は少年の親というには歳が近く、かといって兄というのに離れて見えた。  ただ、少年の保護者ではあるのだろう。  そして、あの場の支配者もまた、その青年であった。青年の言葉に村長は「そりゃあもう」とすでにジンの意見など聞く耳を持たなくなっていたし、少年の方は少年の方で「よろしくお願いします」と行儀よく、ジンにその小さな頭を下げてみせた。
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