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第2話
女だと思っていた人物は、男であった。
肌は白く滑らかで、沁みひとつなかったが、その胸は真っ平で……瑞々しい乳首がちょんと乗っている。
そこだけを見れば超貧乳の女なのかもしれないと思えたが、股の間には間違いなく男の証である……ペニスがぶら下がっていて。
女だと思い込んでいただけに、櫨染は混乱してしまう。
確かに、この淫花廓を訪れる客は、女だけではない。
ゆうずい邸の男娼は男を抱くこともあるし、現に櫨染も男を相手にしたことが何度もある。
しかし……涼香は女だと思っていた。
その細い腰つきや……涼香から滲み出る気配が、雌のそれであったからだ。
「あたしの名前、涼香じゃないのよね」
少し掠れた甘い声で話しながら、涼香が櫨染の陰茎を細い指でくちくちと弄った。
その手は的確に櫨染の快感を煽り、肉棒はあっという間に勃起する。
うふふ、と涼香が赤い唇で笑う。
「あたしはスズラン。しずい邸の男娼の、スズランよ」
指の腹で櫨染の亀頭を撫でながら、涼香……いや、スズランがそう言った。
「は? しずい邸?」
「嫌だわ。しずい邸を知らないの? ゆうずい邸の隣に建っているじゃない」
「それぐらい知ってる! しずい邸とは行き来できないって聞いてっけど、それがなんでこっちに来てんだよ」
「あなたのお仕置きをするためだってば。あなたが子どもに悪さするから……」
「あれは漆黒が……いってぇ! おい、ちから入れて握んなっ」
スズランの指のちからが不意にぎゅうっと強まり、櫨染は腰を動かして抗議した。
「あら。持ち主と違ってこっちのハジメちゃんは繊細でちゅね~。よしよし」
スズランが櫨染の陰茎にとろりと香油を垂らし、親指と人差し指で作った輪っかをカリ部分に添えて、くりくりと回した。
痛みの直後の快感に、櫨染は「うっ」と呻いてしまう。
「な、お、俺は櫨染だっ、変なあだ名付けんじゃねぇ! つーかちんぽに話しかけんなっ」
「やだ怖い。そんなだから、お仕置きされちゃうのよ。アザミさんの手を煩わすまでもないわね。あたしが徹底的に再教育してあげる」
スズランが話しながら、勃起した櫨染のペニスの根元に、ベルトタイプのリングを装着した。
「な、なにすんだよっ」
ほっそりとした体を蹴り飛ばそうとした櫨染だったが、スズランに先に太ももの上に座られてしまい、それは果たせない。
「あなたは今まで、好き勝手にお客様を抱いてきたでしょう? 今日はあたしが、ハジメちゃんを弄んであげる」
さらり、と長い髪をかきあげて。
スズランが仰向けに横たわる櫨染を見下ろして微笑んだ。
根元をぎゅっと締め付けられた陰茎の上に、膝立ちになったスズランが、自身の足の間にそれを導く。
櫨染の肉棒の先端が……。
スズランの後孔に、ぬぷりと潜り込んでいった。
櫨染へと腰を下ろしながら、スズランが「ああ……」と吐息を漏らす。
「ハジメちゃん、おちんちんだけは、いい男ね」
大きくそそり立った櫨染のそれを、そんなふうに評して。
スズランがすべてを体内に収めた。
なんて孔だ、と櫨染は思った。
うねりながら櫨染を包む肉鞘は、絶妙な収縮を繰り返していて……挿れているだけで充分気持ちいい。
これが、しずい邸の男娼なのか……。
ゆうずい邸と並び立つ建物の中には、雌を売り物にしている男娼が暮らすと小耳に挟んだことあがあるが……その噂は本当だったのか……。
「くっ……」
陰茎に媚肉が絡みついてくる。
これはやばい。
コックリングがなければ男娼にあるまじき速さで射精してしまったかもしれない。
櫨染が喉奥で呻きを漏らすと、スズランが長い睫毛を瞬かせて双眸を撓めた。
細く艶めかしい腰が、櫨染の上で踊り出す。
ぬちゅっ、ぬちゅっと滑った音とともに、スズランが騎乗位で抜き差しを始めた。
櫨染の腹の辺りに両手をついて体を支えながら、上下に弾んだかと思うと、深い部分まで肉棒を受け入れて淫靡に腰を回す。
「んあっ、あっ、いいっ、あっ、ハジメちゃんが、いいとこに、当たるっ」
「は、櫨染だっつってんだろうがっ、うぁっ」
スズランに翻弄されるのが癪で、櫨染は手をがむしゃらに動かした。
拘束を少しでも緩めることはできないだろうかと思ったのだが、どういう縛り方をしたのか、動かせば動かすほどそれは手首に絡みついてくるようで……櫨染は怒りに任せて下から腰をずんと突き上げた。
「ひあぁっ」
胸を反らせて、スズランが喘ぐ。
よし、このまま攻めて、主導権を握ってやろう。
そう考えた櫨染は足を踏ん張り、ベッドのスプリングを借りて、ギシッ、ギシッとスズランを攻めた。
「ああっ、いいっ、イくっ、イくぅっ」
淫らな喘ぎ声とともに、スズランのペニスからぴゅっっと白濁が飛ぶ。
彼が絶頂を極めるのに合わせて、後孔もすさまじい蠢動を見せた。
櫨染のペニスに絡みつき、奥へ奥へと誘い、先端に吸い付くような痙攣を起こす。
「うっ、あっ、あっ」
櫨染の口から思わず喘ぎが漏れた。
ヤバい。気持ちいい。
だが、根元のリングのせいで達することができない。
「く、くそっ。もういいだろっ、外せっ」
櫨染は、自分の上で呼吸を整えているスズランを睨み上げ、怒鳴った。
スズランの赤い唇がまた笑う。
「お仕置きって、言ったでしょう?」
甘く掠れた声が、そう囁いて。
彼がまた、柳腰を動かし始めた。
櫨染の勃起したままのペニスが、スズランの中でいたぶられている。
「くっ、うぁっ、痛いっ、痛いからっ、外せって!」
「いまのハジメちゃんは、あたしの玩具よ。バイブ代わりに、あたしが満足するまで付き合ってもらうわ」
長い髪をさらりと揺らして。
艶然と、スズランが微笑んだ。
一度放出した彼と違い、櫨染のそれは精子をぱんぱんに溜めたままだ。
達することがでできない苦しみは、強すぎる快感となって櫨染を苛んだ。
しかしスズランは櫨染の反応を一切顧みることなく、好き勝手に腰を振ってくる。
「ああっ、あっ、ま、またイきそうっ」
奔放に櫨染に跨り、牡を貪るその様は、動物的ではあるが……うつくしく、蠱惑的だった。
櫨染に見せつけるように自身の乳首を弄り、ペニスを扱き、後ろに櫨染を咥えたまま、スズランは再び逐情した。
その際に巻き起こる蠕動が、櫨染をまた責め立てる。
「くっそ……あ、ああっ、もう、いいだろっ。リングを取れって!」
汗を滲ませながら、櫨染は訴えた。
痛いほどに張りつめたペニスはもう限界だ。
ひとりだけ二度も達したスズランが、意地悪く笑った。
「ずっと血を堰き止めてると、おちんちん、使えなくなっちゃうみたいよ?」
「おいっ」
スズランの言葉に、櫨染がぎょっと目を剥く。
そんな櫨染を睥睨して、スズランが櫨染の金髪をやわらかな仕草でそっと梳いた。
「どうすればいいか、わかる?」
やさしげな声で、囁いて。
スズランがまた、腰をゆっくりと揺らし始める。
「あっ、も、もうっ、外せってぇ!」
「ダメよ。ハジメちゃん。イイ子になれば、外してあげる」
くちゅ、ぬちゅ、と結合部で水音を立てながら、スズランが後孔を締めて、櫨染を追い込んできた。
櫨染は唇を噛みしめて耐えていたが、ペニスが使えなくなる、と言われたことに加え、陰茎で感じる快楽がもう限界で……生理的な涙を滲ませた目で、スズランを睨みつけた。
「……あっ、あぅっ、も、もう、イかせろっ」
「ブー」
揶揄するような口調でそう返したスズランが、両手の人差し指をクロスさせて、『×』の字を作った。
「不正解っ」
腰のグラインドが大きくなる。
うねる肉壁にぎゅうぅっと搾られ、櫨染は「うああっ」と叫んだ。
下半身が勝手にへこへこと動いてしまう。
刺激をしたら、つらいだけなのに……止まることができない。
「イ、イきたいっ、イきたいっ」
「ダメよ。ハジメちゃん、わかるでしょう? イイ子はどう言えばいいの?」
スズランの、毒を含んだかのように甘い声に唆されて……。
櫨染はついに、ぼろりと涙を零して、ゆるしを乞うた。
「い、……イかせて、くださいぃっ」
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