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(side水野)
毎日イジメられて、お金を取られ、親に迷惑をかけることはどうしてもしたくなくて、ならばもう死んでしまうしかないと思った。
カオリはそう言って細い体を抱き、抱えた膝に額を当てる。
これはあれだ、強迫観念。そうするしかないってなんでか思い込んでる。
いじめられて。
なんてことだ。そういうのは良くないことなのに。
いじめられることはままあることだ。
俺もみーくんもよくいじめられた。まぁ俺は短気でみーくんはいつも笑っていたから、死のうと思ったことなんてなかったけれど。
そんなのってのはおかしい話だ。
いじめっこといじめられっこ。
異常なのはいじめっこで、彼等は心が傷だらけで、柔らかな心が羨ましくて憎らしくて仕方ない生き物だから。
「だけどカオリ、死ぬのは怖くないのか? 俺は怖かったよ、とても」
「……え?」
「だって死んでしまったら、もうみーくんに会えないって思ったんだ」
カオリはぽかんとして俺の言葉をよくわかっていない顔をする。
最重要事項さ。
みーくんに会えない。みーくんのいない世界。みーくんが俺のいない世界でにこやかに生きる。
俺を忘れて生きる。地獄だろう?
「カオリはどうしたい? そのいじめっこたちに目にもの見せてやりたいのか? それともただもうどうしようもなくて疲れ果ててしまったのか?」
「そ、れは…………わ、わかんないけど、兎に角……私は、もう嫌……ずっとずっと、もう嫌って思って……」
「うん、うん。戦う気力はないもんな。わかるよ。死ぬ時って仕方ない。死にたいじゃない、死ぬしかないんだ」
「っ、そう、そうなの……駄目になっちゃったの……っこれで、いいのか、どうしたいかはわかんない」
ただ、今のままはもう嫌。
耐えられないの。
カオリはそう言った。
カオリは世界がいらないんじゃない。世界がカオリをいらないと言っているように思っているんだ。
俺はカオリの頭をなでて、そっと抱き寄せた。細い体がビクと震えて目を見開くが、逃げ出すことはない。
どうしてそんなに驚く?
俺は死んでいるのだから当たり前にとても冷たいだろ?
逃げない彼女は俺が冷たいことも今はどうでもいいみたい。彼女の熱い雫が俺を溶かすようにこぼれ落ちて、彼女はしくしくとしゃくりあげて泣き出した。
「生きてるって怖いだろ。それは死ぬのが怖いからだよ。生きてるから死ぬんだからな」
「こ、こわい……でも、でもわたし、戦えない……人も残酷だけれど、空気が残酷だよ……わたしは空気がこわいんだもん……っ」
「そうだな。あとは孤立無援。理解されないことは寂しいんだ。理解したフリは胸糞悪いんだ。話を聞けばいいだけなのに」
「うぅー……っ、みずの、さ、の言葉、難しいー……っ」
「? 簡単だろう? 俺は慰めてるんだけど、駄目か? それともみーくんの真似っ子しようか?」
悲壮の中をいくカオリは俺の慰めは慰めと捉えてくれなくて、俺は首を傾げる。
でも俺は今カオリを見つめてカオリを理解しようとしているんだ。
お前を、真剣に。
されないとしたフリはイケないけれど、しようとされるのは嬉しいだろ? 俺は嬉しかったな。
仕方がないから、慰め上手なみーくんの真似っ子をすることにする。
抱き寄せたカオリの背中をよしよしと擦って、髪にキスをして「お前が好きだ、好きだぞ」と言い続けてみた。
けれどそんなことをすると気になって散歩に行っていたみーくんが帰ってきちゃうのも、仕方がない。
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