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「スイ、彼女ができたのか?」
「っ!」
「みーくん、おかえり」
みーくんがカオリの真横で、首を傾げて立っている。カオリは勢い良く顔を上げて震えたので、俺は手を離してあげることにした。
これがみーくん。
これがあると世界は素敵になるんだぜ。
みーくんはVネックシャツとジャケットにジーンズのいつものみーくんでしゃがみこんで、泣いているカオリの頭をよしよしとなでた。
俺の彼女と勝手に思っている。
そういうところがあるんだ。
「泣かせちゃだめだ、彼女なら」
「泣かせてないぞ、彼女でもない」
「じゃあいいか」
「うん、これはカオリ。カオリはいじめられて死ぬそうだ」
「勇敢だね」
爽やかで俺よりも人好きのする顔をしているみーくんが優しく笑えば、カオリはドギマギしつつも声にならない挨拶をして頭を下げる。
増えて困ったかな。
困らないでいい。俺とみーくんは二人で一人だと思ってくれ。
みーくんは「俺は三島」と挨拶をして、お返しにペコリと頭を下げる。
「俺は賛成だな。いつか死ぬのは怖いから今から死ねばいい。そうしたらまだいくぶん建設的だ」
「そうだけど、カオリは死ななければいけないだけで死にたくはないんだぜ。つまり俺と一緒だ」
「なるほど、それはだめだな。君がどうしたいのか一緒に考えよう」
「考えよう」
右から左から見つめられるカオリは鼻水をすすってぐずったが、泣いてはいない。というか俺たちの話についてこれないみたいだ。
ちょっと自覚があるけれど、俺とみーくんはお互いの言いたいことが多少説明不足でもわかるから、他の人を混ぜると話が進まない。
俺たちは離れることはできないから、我慢してほしいな。
話が進まなくても死にやしない。
「はっ、……ど、どうしたいのか、って……そ、それがわかんない。なにしてても疲れてて、頑張る気にうまくなれない……」
「よし、代わりに考えよう。紐解くか? まず一つ。方法がなくて現状打破できないから死ぬしかない」
「じゃあ方法を考えよう。いじめっこがいなくなれば平和か?」
「いやいや、友達がいないと学校は楽しくない。そういうシステムだ」
「ふーむ。じゃあいじめっこを排除して友達がいればいいんだな、カオリ」
「えっ? え、えと、えーとっ」
優しく微笑むままのみーくんはずっとカオリの頭をなでなでしながら尋ねる。
泣いてる子には優しいんだ。
泣いてるということは、優しさに飢えているということだ。
足りないものは〝満足〟。
よく話を聞くだけでその人の心をいくぶん楽にしてやれると言うが、それは否定されないという些細であり広大でもある当たり前の優しさによる。
それで言うと、みーくんは否定しないからこそ優しさの塊だ。
カオリがみーくんを好きになったら困る。みーくんがよそ見をするより、誰かがみーくんを好きになるほうが困る。
誰もみーくんを好きにならなければ俺だけが愛しているのだから、みーくんは俺を手放さないと思うからな。
「カオリ、みーくんを好きになったりしないなら、俺はカオリの友達になる。良いか? 友達っていうのは〝心を慮る対等な者〟だ。面の皮じゃなくてその一枚先を気にかけるってこと。そうだろう?」
「そうなのか」
「そうだ。俺の友達はそうするって決めてる。俺の友達の定義はそうだ」
「へぇ」
俺がカオリに言い聞かせるように提案すると、みーくんは初耳だと目玉をぱちくり。
みーくんは俺の恋人なのにどうして俺の友達のあり方を知らないんだ? 言ってないからか、んじゃあ仕方ない。
カオリはまだぐずっているから俺の言葉に返事をしない。
返事をしようとしているけれど混乱しているし声になってない。届かない返事は返事じゃない。
いじめっ子に目に物見せて、俺が友達になればいいね。
そうしたら、本当に死ぬ必要性があるのかきっとわかる。
お前のせいで死んだぞ、ざまあみろ! といじめっ子に言いたいならば、死んでしまったら意味がない。確認しないと意味がない。
俺が、俺とみーくんが死んだあとあんなにニュースになったのに、もうだぁれも覚えてないんだからな?
みーくんは、それってなんて幸せなんだろうか、と嬉しそうに夜明け前の境界線をスキップしていたけど、俺はちびっと不服だ。
俺とみーくんの素敵な愛を覚えていないなんて、この世の歴史の重大な欠陥さ。
「そうか。そうしたら俺とも友達になろう、カオリ。ルールはそうだな……スイを好きでいてくれな? 絶対に、好きで」
「みーくん、ブツ切りじゃなくもっとロジカルに思考してくれよ」
「スイ、俺たちはロジックに当てはまらない失格者だぞ」
「それもそうだ」
それじゃあよろしく。
重なった声と冷たい手が二つ、涙で熱いカオリの頬をなでた。ん? 脈絡? それじゃあと言ったじゃないか。それじゃあはなんでも繋いでくれる。
ホラーの世界では往々にして、幽霊とはまともな意思疎通ができないものなのだよ。
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