壊れかけた心

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それから私とお母さんは出産まで話さなかった。最後に話したのは、お母さんが出産して、病院に行き、弟と面会した日。家族四人が病室に揃ったときだった。 『ほら、冬羽。お前の弟だぞ。』 父が得意げに笑って言った。私はその子の顔を覗き込んだ。初めて間近で見た赤ちゃんは、とても可愛かった。 『とわちゃん、可愛いでしょ。敬っていうの。』 『けい...』 赤ちゃんの顔をみた。とても愛らしい顔をしていた。丸い大きな瞳で私のことをみると、きゃっきゃと笑った。私も思わず笑顔になった。 『よかったな、冬羽。』 私はうん、と頷いた。父が再婚して、一番嬉しい出来事だったと思う。久しぶりに心が満たされた気がした。 でも... 『でも、ごめんね、とわちゃん。私、ここを退院したらしばらく家に帰れないの。』 『え...?』 家に、帰れない? どういうことだろう。お母さんは仕事はしていないはずだ。だって、再婚して今までずっと家の中にいたんだから。 その理由が分からず何も言えずにいると、父が話し始めた。 『ごめんな。黛のご両親が、どうしても小さいうちは一緒に住みたいって言ってるもんだからな。敬が小学校に入学するまで、黛の実家で育てるんだ。』 初耳だった。そのとき、こないだお母さんが言った言葉の意味がわかった。 お母さんはこのことを言っていたんだ。自分の実家で育てるから、私とお母さんは会わないし、もちろん、弟にも会えない。父は会いに行くかもしれないけど、私はきっと家にいる。敬が小学校に入学するときにこっちに戻ってきても、会ったこともない私とはきっと仲良くなれない。 このことを言いたかったんだ。 あのときのお母さんの顔が思い浮かんだ。少しの同情と優越感の混じった顔。 私は二人に悟られないように少し、唇を噛んだ。
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