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「今、何してるのかな...」
一人の部屋の中にぼそっと呟いた。
敬は今頃、何してるんだろう...。
病室でたった一回。それも、生まれてまもない頃に。一回あっただけなのに、私の中に占める存在は家族の中で1番大きいと思う。
私が9歳のときに生まれたから、今年で4歳。
あれから、お母さんとも敬とも会ってない。父は相変わらず仕事が忙しいって家にいないし、顔を合わせることもない。
これじゃ私、ひとり暮らししてるみたい。
突然、目の前の視界がぼやけた。
その直後、頬に一筋の涙が零れ落ちるのがわかった。ぽた、ぽたと落ちる涙は、留まることを知らなかった。
「やだ、私...。ひとりに、なりたくない...」
今まで溜めていた思いが一気に溢れ出した。
古い記憶の中にいる『母』は、いつも優しく笑っていた。頑張ったときは、思いっきり褒めてくれた。悪いことをしたときは、思いっきり叱ってくれた。
でも、褒めてくれたときも、叱られた時ときも、最後はぎゅっと抱きしめてくれた。
あぁ、私、愛されてるんだ。
そう心から思うことができた。
褒められることも叱られることもないことが、こんなに寂しかったなんて知らなかった。
「まま、帰ってきてよ...。私、ひとりになりたくないよ...」
ポツリと呟いた独り言は、部屋の中に消えていった。
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