陽多

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陽多

「お父さん!」 後ろから娘が抱き着いてきた。 六歳の成長真っ最中の娘、陽多(ひなた)だ。 「今日、傘持っていくの忘れてたでしょ?  お母さん怒ってたよ」 「あー…」 脱線事故があったから、傘忘れたことは言われてないな。 陽多に愚痴ってたのだろう。 「だから‥はい!」 プレゼントを渡すように笑顔で両手を差し出した。 その上には‥青い折り畳み傘。 持ち手部分には‥笑顔の可愛らしいてるてる坊主の人形がぶらさがっている。 ‥見間違いか? そんなはずはない、ありえないと思った。 少し前に同じ物を見たからだ。 「‥‥‥」 「お父さんどうしたの?難しい顔してるよ?」 「え?ああ、ごめんごめん…なんでもない。大事に‥使うよ」 受け取って、もう一度確認する。 新品だからぼろぼろではないが‥間違いなく、あの傘だ。 「そのてるてる坊主はね。はやく晴れるようにしてくれるお守りなの!」 ‥なるほど。 「傘が青いのはね。空をイメージしたの!  これで、きっと早く晴れてくれるよ!」 あの時、俺が思ったことと同じだ。 「はは、陽多は良い子だな」 頭を撫でると、にっこりと嬉しい顔をした。 この傘は、大事にしよう。
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