1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

 下校を告げるチャイムが聞こえてからおよそ10分がたったころ、夏服姿の中学生たちが校門からつぎつぎと現れた。私は下校する生徒たちの人波を避けて校門の横の壁に背をつける。三、四人の男子生徒が、校門を出たところで、体をぶつけあったり、冗談を言いあったりしている姿が見えた。そのうしろからきた女子生徒らは、男子生徒の傍迷惑(はためいわく)な振るまいを避けるようにして足早に校門から出ていっている。  かれらの手には私と同じようにみな傘があった。午後の降水確率90パーセントの予報にしたがって当然のごとく傘を持ってきていたのだろう。傘をさしていない気の毒な生徒は見当たらなかった。 私は傘を持って校門から右や左に折れていく生徒らを見つめて、そのなかに自分の娘の姿を見逃すまいと注意深く目で追った。  私の顔に雨水があたった。  くるくると傘を回す男子生徒がいた。 「あっ」と、その男子生徒は言った。 「い、いや。だいじょうぶ……」と私は言ったが、その男子生徒は足をとめてきちんと謝るでもなく、私のほうを見もせずに首をかしげた程度で、さしている傘の内側に顔を隠し、さまざまな色合いの傘が移動していくなかにまぎれていった。  下校する生徒がまばらになってきたようなので、私は校門からなかを(のぞ)いた。もう数人の生徒の姿が見えるだけになっていた。私は学校の敷地のなかに入っていった。  校舎からつながる渡り廊下の軒下をスポーツウエアを着た女子生徒らが駆けていた。女子生徒らが全員私を横目で見ていた。私は彼女らに不審者と思われているのでは、と心配になった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!