新宮真

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 真が語っているとその目前に黒服の顔が「ぬっ」と現れる。驚く真に黒服は黒い目を向けて言う。  「嘘、ですね。誤りを述べることだけでなく、真意を故意に隠すことも嘘とみなされます。」  真は目線を横に反らした。  「嘘をつかれるのはご自由ですが、真実を話していただけない限りは新宮様の安楽死も実現できないことをご理解いただきたいです。」  黒服は真の目前から退くことなく宣告し、真は無言の圧力にあてられた。しばらくして、真は目線を反らしたまま声をこぼした。  「分かりました。嘘をついたのはすみません。言われた通り真実は省略しました。ですが、間違ったことを言った訳ではないんです。」  黒服はゆっくりと体勢を元に戻した。  「いじめは本当に受けました。靴隠しに水掛け、教科書は何冊も買い換えることになりました。それでも私はそれを苦に感じなかったんです。むしろ川端さんを助けたことに誇りすら感じました。そのせいで受けるいじめは勲章のようなものに思っていたんです。私はずっと考えていた答えにたどり着いたのだと、誰かのための生を全うできているのだと信じて疑いませんでした。」
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