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「新宮様、もうすぐこの家を出ます。もう帰ってくることはないでしょうから、ここを去る準備は出来ましたか?」
黒服が尋ねる。
「ああ、もうすぐ終わりそうです。待たせてすみませんね。後はこのダンボールの中を確認するだけです。」
そう言って新宮真はダンボールを開く。ダンボールの中身は賞状、教科書、ノートなど学生時代の遺品が敷き詰められていた。真が上の層から一つずつ外へと広げる。中学一年、中学二年、中学三年と並べていく。大切なもの、大切じゃないものを仕分けていく。
「これは何ですか?」
黒服がノートとノートに挟まれた茶封筒を引っ張る。茶封筒の表紙には「10年後の自分へー新宮真」と書かれている。
「ああ。それ中学三年生のときに書かされた将来の自分への手紙です。大したことは書いてないですし、捨てるだけですから読みたければ読んでいただいても構いませんよ。」
真は興味なさそうに答えた。動きは緩めないまま一定のリズムを保っている。
「それでは、遠慮なく。」
黒服が茶封筒を開け、三折りにされた白い紙を広げる。黒服は近くの床に腰を下ろし、真がノートを一冊、また一冊と積み上げていく紙擦れの音を耳に手紙を読み始めた。
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