第九章

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「なに、簡単な事じゃ。そういう制度だと宣伝しておけば都合が良いことが多い、ただそれだけの事よ」  実際は全てをアスタロッテ1人で決めていた。それを肯定する表現であった。 「全てはお父様のために」少女は天井を仰ぐように両手を広げる。 「お父様だって?」  タイサが会話に入る。 「それじゃぁ、この戦いは魔王の………お前達が信奉する二百年前の魔王から独立するためじゃないってことか!?」  そうなると話が大きく異なってくる。仮にここで新生派の動きを阻止したとしても、少女の言う『父』と呼ぶ者がいる限り、根本的な解決には至らない。 「何じゃ………本当に何も知らないのか? お主、仮にも『魔王』を名乗る者なのじゃろうて」  アスタロッテは白い顎に指を乗せて考えると、すぐに『ああ』と何かを思いつく。 「お主………父様から何も聞かされていないようじゃの。我が父は『魔王』その人じゃ」「なっ!」  憐みの目で少女は仕方がないと語り出した。 「黒の剣が魔力を蓄えると、『魔王』が復活する………つまり、我のお父様が復活するのじゃ。お主はただ黒の剣を扱うだけの道化、いやその役割も既に終えているのじゃから、今はそれ以下じゃのぉ」  舞台から降りるはずの役者がまだ残っている。その不満さが少女の顔に如実に現れ始めた。 「じゃぁ、何だ………俺達人間は、いやシドリー達でさえお前の父親を復活させるために使われただけだってことか!?」若干の違和感を感じつつも、タイサは感情的に声を荒げる。 「まぁ、そういう事じゃな」  左右の腰に手を当ててアスタロッテは、『もうよいじゃろう』と言葉を断ち、息を吐く。 「さて、台本を終えた役者は舞台を降りてもらおう。ここから先は、我と父様以外は不要じゃ」  少女は体を横にして右手を摘まむように上げる。その指には、いつの間にか黒い扇子が添えられていた。
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