第九章

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「さぁ、来るが良い。人でありながら魔王と呼ばれた者よ。ここで塵となり、その名を父様に返すのじゃ」 「ふざけるなぁっ!」  タイサは両手を曲げて腰に構えると、早馬のように少女に突撃を始めた。 「エコー! 援護しろ!」「了解!」  タイサの攻撃範囲はほぼゼロ距離。とにかくアスタロッテに接近するしか方法はなかった。 「何と思考も欠片もない………まさに牛じゃな」  アスタロッテは右手に扇子を構えたまま周囲に黒い球を出現させる。1つ1つの大きさは大人の握り拳程度だが、その数は優に百を超えていた。 「さて、ここまで来られるかのぉ」  無数の黒球が解き放たれる。  タイサは左の大盾を横にして攻撃を弾き続ける。その多くは大盾で防げているが、残りはタイサの横を通過していくか、大盾で守られていない両足へと当たり、騎士鎧と同じ材質のグリーブが黒く変色しながらタイサの足から剥がれ落ちる。  だがタイサは足を緩めない。 「ほぉ、訂正しよう。近くで見るとまるで壁じゃな。鉄壁というのもあながち嘘ではないらしい」少女が大盾を見上げる。  あと数歩、タイサは間合いに入る瞬間に右足を外側へと蹴り、体を左に傾けた。  さらに背後にいたエコーは無言のまま右側へと飛び跳ねる。 「むっ?」  左右に挟まれたアスタロッテの表情が僅かに曇る。体を横にしていた彼女から見れば、正面からタイサの巨大な杭打ち、背後からはエコーの鋭い突きが放たれていた。 「無言の挟撃。阿吽の呼吸か。その動きは悪くないが………」  アスタロッテが大きく1歩後退する。 「仲良く互い技で死ぬが良い」 「そいつは」「どうかしら!?」  互いに向き合っていたタイサとエコー。タイサは杭打ちを斜め下に傾けており、杭は床に刺さり壁となる。エコーは剣を構えたままタイサに向かって飛び込んでいたが、杭打ちの直線状からは前にずれていた。  エコーは空中で姿勢を変えると、壁となったタイサの盾に両足をつけて踏ん張り、方向を90度変えて後退したアスタロッテに再度跳び向かった。
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