第九章

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「ほぅ!」  アスタロッテの顔が笑みの籠った驚きに変わる。そして右手の扇子を開くと、エコーの突きを受け止めた。 「まだまだぁぁぁぁっ!」  エコーが蹴った反動で杭を外して回転を始めたタイサが、アスタロッテに背を向けたまま右後方の杭を射出する。 「ぬぅ………」  黒の扇子が杭打ちによって粉砕される。アスタロッテには届かなかったが、破砕した黒の扇が丁度良い目くらましになった。  エコーはすかさず横に抜き出たタイサの杭を蹴り、アスタロッテの左側面に跳ぶと、三度剣を構える。さらにタイサも蹴られた反動で逆回転を起こし、相手と正面に向き合うと両手の杭を前に突き出した。 「この者達………」  瞬間、タイサの両手の杭が飛び出した。その威力はタイサが大きく床を削りながら後退するほどで、発生した衝撃波と音は周囲の空気を吹き飛ばし、音すら消えてあらゆる粒子をあらゆる方向へと追いやった。  構えた振りだけだったエコーがその場から飛び去り、タイサに合流する。 「さぁて………これで倒れる相手ではないと思うが」  無傷では済まない。タイサはそれくらいの希望をもって、部屋の奥の壁に叩き付けられた少女を睨みつけた。 「………無傷のようです」「畜生め」  エコーの報告に、タイサは苦虫を噛んだ表情になる。  だがそれでもアスタロッテは両腕を上下に重ねて防御の姿勢をとっていた。彼女の前では六角形の薄黒い障壁が数枚展開されており、彼女が腕を下ろすと同時にその障壁は順次消えていった。 「驚いたぞ………両手で守るなど、いつ以来じゃろうか」  ドレスに付いた灰色の埃を片手で払うと、指先から先程の六角形の黒い障壁を1枚展開させる。 「闇のアイギス。お父様の得意技じゃ。あらゆる攻撃を弾く、魔の障壁………人が作った武器程度ではこの薄い壁、簡単には破れぬぞ」  握りしめるように障壁が砕け散る。
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