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バツの悪そうな顔のままタイサが食卓に座ると、既にエコーが木の食卓に目玉焼きと焼き立てのパンを乗せた皿を運び終えて待っていた。
「さぁ、朝食にしましょう」
エコーが座ると、2人で手を合わせてから食事に手をつける。
小麦色に焦げ始めたパンの温かさと外側だけが硬めに、中は羽毛のように柔らかいパンはルーキーの奥さんの営むパン屋の一品で、早朝から並ばないと手に入ることが難しい人気である。さらにそのパンの上に半熟の目玉焼きが乗り、口の中でとろける黄身の甘さとパンの甘さ混ざり合い、絶品の表現に昇格する。
「んまい」「ふふ。ありがとうございます」
毎日の言葉を聞き、エコーが笑う。
「そういえば、明日か。カエデが戻ってくるのは」
「ええ。ブレイダスの街まで商人の護衛だと言っていましたが」
あれから2年。カエデも今では立派な上級冒険者の一員として独り立ちしていた。
「それじゃぁ明日はまたいつものお店で酒盛りですね」「当然。既にボーマとジャックに言ってマスターの店は押さえてもらっているからな。ああ、もちろんエコーはお酒は駄目だぞ」
少しは妊婦としての自覚を持ってもらいたい。タイサは残念そうに舌を出しているエコーに釘を刺した。
丁度食事が終わると、扉が叩かれた。
「もうこんな時間ですね。隊長、お皿は片づけておきますから、すぐに準備してください。荷物は全てソファーの上に置いてありますから」
「………相変わらず手際が良い」
口元に付いたパンくずを親指で払うと、タイサはソファーの上に置かれていた普段着に着替え、背もたれに掛けてあった薄めの上着に手を掛ける。
「おはようございます」
扉を開けての第一声。声が敬礼して響くこの声はバイオレットだった。既に彼女は騎士団の鎧に身を纏い、そのまま戦場に出る勢いで扉を開けたエコーの前に立っていた。
「おはよう、バイオレット」「おはようございます。隊長、エコー先輩」
今では王国騎士団『盾』の副長として任に務め、エコーに代わってタイサの補佐を務めている。
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