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「相変わらず固いな、バイオレット」
上着を纏ったタイサが彼女達に近付く。
「そんなに固いと、夜までもたないぞ?」
今日はシドリー達が王都に到着し、そのまま混成部隊の結成式が執り行われる。そうなれば夜は宴会と相場が決まっており、タイサもバイオレットも簡単には帰れない。
だがバイオレットは溜息をあからさまについて見せると、呆れた顔で目を細める。
「失礼ながら、隊長が柔らかすぎるのです。これから混成部隊の長になるあなたがそれでは周囲も困ると思うのですが」
彼女の何気ない言葉にタイサは一瞬時が止まり、首を傾げた。
「ちょ………っと待て。今、何て言った?」
今度はバイオレットが首を反対に傾げる。
「ですから、このままでは周囲に示しがつかないと」「その前だ、その前」
タイサの焦る声に、バイオレットは『ああ』と理解してもう一度同じ言葉を口にした。
「隊長は今日結成される混成部隊の長に………まさかとは思いますが、もしかして知らなかったのですか?」
そんな馬鹿なとバイオレットは鼻で笑い始める。
「知らん」
「本当に?」「本当に!」
洗ったばかりの顔に汗が流れ始める。ようやく事後処理も含めて争いごとから解放され、復職した騎士団『盾』で生暖かい騎士団生活を満喫しようとしていた矢先。人と魔物が手を取り合う象徴となる部隊の長を務めるなど面倒ごと確定である。
「普通は、事前に命令書が届くはずだろう?」
「はい………ああ、そういえば」
急にバイオレットの声が棒読みになる。
「私が渡すのを忘れていました。申し訳ありません」
「お前かああぁぁぁぁぁぁぁ!」
迷うことなく胸元から王印の入った蝋で封がしてある羊皮紙を取り出すバイオレット。
しかし、抜け目のない彼女に渡し忘れという手違いがあるのだろうか。タイサは震える手で封を破り、中の文字を確認する。
羊皮紙に書かれていた内容は、確かにタイサを混成部隊の長に任ずるものであった。
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