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「………お前が渡し忘れか。しかし、随分と珍しいこともあったもんだ」
部下の間違いは団長の責任。タイサは必要以上に彼女を責めないことにし、理由だけを尋ねた。
「はい。私も色々と変わってみようと思いまして」
「ん? あ、おう」
話が噛み合わない。
「もう少し女性らしく見られたいと相談したところ、『うっかりさん』というものが男受けすると教わりました」
「………誰に?」「ボーマ先輩です」
思わず羊皮紙を握り潰すタイサ。
「それと、自分の性格とは真反対な間違いが良いとも教わりました」
「………誰に?」「エコー先輩です」
タイサはすぐさま隣に顔を向けたが、既にエコーは洗濯籠を持って裏庭へと撤退していた。
「おのれエコー………ボーマは絞る」
歯を噛みしめ、タイサは雑巾を絞るかのように2つの拳を擦り合わせる。
「それで隊長、どうでしたか?」
「え?」
思わずバイオレットに視線を向けた。
「女性らしかったでしょうか?」
「ぐぐぅ!」
大変困ったことになった。タイサは両極端な対応に迫られた。
随分と明後日の、いや一周回って再来年くらいの方向にずれた実に堅物バイオレットらしい発想であったが、その性格の彼女が女性らしくありたいという気持ちを根元からへし折る訳にもいかず、タイサは思っていることを必死で飲み込んだ。
「まぁ、無理しなくてもバイオレットは十分女性らしいさ」
仕方なくタイサは過ぎたことだとバイオレットの頭を撫でる。
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