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「それで………遅れたという訳か?」
会議室の一番奥で頬杖をついているリリア女王の前で、タイサはバイオレットと共に、膝をついて頭を下げ続ける。
「嘘をつくなら、もう少しまともな………」「女王陛下………友を擁護する訳ではありませんが」
会議室ですでに座っていたデル騎士総長が、額に手を置きながら情けない声で援護する。
「この者は、そういう男です」
援護になっているのか、見切られたのか。どちらともいえる表現だった。
「まぁ、そうでしょうな。そういう者です」
「クライル。お前まで………まったく、よく笑っていられるな」
女王の横で立っていたクライル宰相が口元に拳を当てて肩を揺らしている。
本来は極刑送り確実だった彼の罪は未だ保留となっている。国王の殺害疑惑、国家転覆、挙げればその数はきりがないが、あれだけの騒ぎを起こしておきながら彼は1年の謹慎の後には宰相の地位に戻り、周囲の貴族や国民の心情を落ち着かせることに成功したのだからその手腕は相変わらずである。
元々、謹慎中も彼の能力を頼りにいくつか事業が進められていたらしく、内々では婚約関係だった状態を破棄しつつも彼を手元に置き続ける女王の懐の深さと大胆さは、周囲を納得せざるを得ない状況を作り出していた。
最も恨みを晴らしたい女王陛下が彼を傍に置いている。誰もクライルを必要以上には責めることはできなかったのである。
クライルもその意味は伝わっており、彼自身も復帰に合わせて貴族の地位返上とほとんどの資産を王国に寄付している。誰でもできないことを当たり前に実行する彼の行動もまた、周囲の批判が弱まる要因となった。
「まぁ、間に合ったのだから良いではありませんか」
もう1人、貴族の地位と多くの資産を返上して許された男がいる。
黄金の鎧をまとっているイーチャウは、タイサを小馬鹿にするような笑みを作りながらも周囲を和ませようとしていた。
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