第一章

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 馬車の外からフードを被った女性が周囲を念入りに確認している。そして女性は一緒についてきた真新しい布の服と緑色のチョッキを身に付けた青年に手を振って合図を送ると、彼女だけが馬車の中に足をかけて登り、青年は1つ後ろの馬車へと駆けて行った。 「戻りました」  女性は灰色に汚れたフードを両手でめくり上げると、紫色の短い髪が大きく息を吸うように広がる。 「ご苦労、バイオレット。早速だが報告を頼む」アイナ王女の横でデルが声をかける。 「はい」  バイオレットは外套付きのマントを羽織りながらアイナに向かって膝を曲げ、臣下の礼を取るとシモノフの街で見て来たことを報告する。 「シモノフの街は門を挟んだどちらの街もこれ以上ない程に混雑しています。宿場町ですが既に全ての宿は満席、中には倍の値段でも部屋を取ろうと商人達が声を張り上げていました」  食料だけでなく、東西の名産品を多く取り扱っている街だが、どちらもほとんどが買い占められ、どんな値段でも店頭に並べた途端に売れていく。もはやその光景は商売と言えず、現地に住む人々ですら当てがある者は別の街へ避難し、当てのない住民達は物資の不足に嘆いているとバイオレットが説明した。  アイナ王女は小さく相槌をうち、事態の深刻さを理解する。 「思ったよりも国民達への影響が進んでいるようですね………ギルドの様子はどうでしたか?」王女が尋ねる。  アイナ王女が臣下であった宰相クライルの謀略によって王都を追放される直前、冒険者ギルドは王女派と協力関係を結んでいた。  王都を抜けてからの数日間、デル達はギルドから情報の提供と物資の補給の協力を受けてきた。シモノフの街でもつい先程、情報と共に食料や水をギルドから受け取ってきている。  物資はバイオレットに随伴していた小柄な騎士、かつての騎士団『盾』で副長を務めていたジャックがもう1台の馬車に積み込んでいる。
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