第四章

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「デル団………あ、いえデル騎士総長。各騎士の小隊長級への伝達が終わりました」  王国騎士団本部用に借り受けた一軒家にバルデックが入ると、彼は言い間違えたことを誤魔化すように顔の前で手を左右に動かして半ば笑い気味でデルに報告する。 「ああ、ご苦労様」  リビングの椅子に座ってコーヒーを飲んでいたデルは、彼の間違いを気にすることなくコップを傾けながら眉を上げて笑って見せた。  そこに老騎士のフェルラントも困った顔で入ってくる。 「どうだった?」 「いやぁ、総長の言った通りでしたな。私では勝てそうにありません」  長年の経験をもってしても勝てない相手だったと、老騎士は大げさに両手を上げて降参する。 「そうだろう、そうだろう」  デルは満足そうに何度も頷くと、2人を同じテーブルに座るように手のひらを上に向けて椅子に案内した。そして2人を座らせると、今度はデル自身が立ち上がって台所からコーヒーを淹れ始める。 「いえいえ、総長、自分がやりま………」  バルデックが慌てて立ち上がろうとするが、デルは厳しい顔のまま台所から顔を出して彼に座るように睨みをきかせた。 「一番何もしていないのは俺なんだから、コーヒーくらい淹れさせろって」  先程のバルデックの言葉に乗るようにデルが台所から声を響かせる。  しばらくすると香ばしい豆の匂いがリビングに運ばれてくる。 「フェルラント、気にすることはない。俺も勝ったことがないから」 「まぁ、そうらしいですな」  デルが2人分のコップを持ってくる。中には茶黒い液体が入っており、白い湯気からは温かさと蒸した豆の匂いが顔を刺激させる。
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