第四章

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 2人はデルにお礼の言葉を並べてからコップを口元に傾ける。 「苦みはありますが、目が覚めるにはいい塩梅で。どこの豆でしょうか」 「さぁな。うちのエルザが俺に投げつけてきた袋に入っていた奴だ。あとは自分が全部やるとさ」  デルの妻であるエルザは、かつて王宮の会計士としてその名を馳せていた。金銭管理、在庫管理で右に出る者はいない。数字が合うまでは決して納得しない頑固さと、相手が誰であれ指摘と追及する恐ろしさに貴族ですら相手にすることを避けたという伝説を持つ。 「俺が手伝おうかと声をかけた時には、ゴブリンとオークが数匹まとめて正座させられていたよ。在庫管理がまるでなってないって………あれは77柱よりもおっかねぇな」 「………総長の奥さんって、そんなに怖い方でしたっけ」  コップを両手で包んだまま、バルデックが視線をフェルラントに向ける。 「自分が声をかけた時には、奥様がゴブリンとオークを指揮して在庫を整理させていました」 「………言っておくが怖いのは仕事の事だけだぞ、バルデック」  フェルラントの言葉にバルデックが口を開けていた。そこにデルは一応と割り込んで誤解を解くが、2人はそれ以上何も言わないことにした。 「とりあえず、今は好きにやらせてやってくれ。あいつにとってはあそこが戦場なんだ」  物資の集積場という久々の戦場、そして非効率な置き方とまとまっていない物資の資料に我慢できなかったのだと、デルは2人に『勘弁してやってくれ』と詫びるように声をかける。 「その代わり、物資関係は寸分の狂いもなく終わるから」  それまでは休んでおくようにと、デルはコーヒーのお代わりを2人に確認した。
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