第四章

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「聖教騎士団………まさか、まだ研究が続けられていたなんてね」  茶色が僅かに混ざった白髪の髪を櫛で揃えながら、フォースィはイリーナの背中から呟く。イリーナは久々に髪を綺麗にしてくれていることに満足しながら、村長のリビングで椅子に座り、浮いた足を前後に揺らしている。 「イリーナ、もう少し足を静かに………そう、そうしないと櫛を強く引くわよ?」 「ひぃぃん。お師匠様、もうすでに痛いです」  自分の髪が数本抜ける音を聞き、頭の頂点を押さえながら涙目のイリーナが後ろを振り向く。 「だから、静かにしてなさいと言ったでしょう? それに、そろそろあなたも自分の髪くらい自分できちんとできるようにしなさい」 「でも、誰かにやってもらった方が気持ちが良いです。それに、お師匠様は上手ですから」  イリーナが満面の笑みで答える。 「………ほら、前を向いてなさい」  フォースィは眉を僅かにひそめながらも、丁寧にイリーナの髪を整え始める。 「イリーナ、あなたは聖教騎士団の3人の顔を見たの?」  櫛が髪に引っかかると、フォースィは櫛の角度を変えたり、位置を変えたりして髪の絡まりをほぐす。 「あ、はい。扉が閉まる前の少しだけですが………でも、私の知っている子はいなかったです」 「………そうね。そのはずよね」  既に彼女の知っている同年代の子どもは生き残っていない。フォースィがイリーナを引き取ることになった事件で、彼女は同年代の子ども達を全て自分の手で殺し尽くしている。 「なら、あれからまた同じ実験を続けていたという事になるわね」 ―――使徒計画。  教会が身寄りのない子どもや買い取った子どもを対象に実験を行い、肉体能力を強制的に底上げし、さらに敬虔な信徒として半洗脳的に育て上げることで教会にとって忠実な戦士を作り上げる計画。  最初期であるイリーナの実験では飛躍的な能力の向上には成功したものの、副作用から子どもの髪は白くなり、そして精神が育たなかったことが原因で強力な能力を制御しきれずに、失敗に繋がったはずであった。
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