第四章

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「ボーマさん………さっきのはさすがにちょっと気持ち悪いです」  どうしてオークと言葉が通じているのか、オークにモテていることに対してカエデは否定の言葉を使わずに彼を拒絶した。 「………さすがは隊長の妹さんだ。ここにきても容赦ないっすね。まぁ、そう言われるのは何となく分かってはいたんですけどね」  ボーマの肩から力が抜ける。ジャックは口を押さえて笑うのを堪えていた。 「まぁ、そこは1割ほど冗談なのですが」「9割本音なら、それは冗談とは言わねぇっすよ」  苦笑いするカエデに、ボーマは素直に返答した。   「成程ね。この戦いが終わったらの話か………」  ボーマとジャック、そしてカエデは青白い壁に横並びになって体を預けながら見えない天井を眺める。  カエデは戦いが終わった後の自分の居場所について2人に悩みを打ち明けた。 「兄貴はあの時言ったように、どこかの街でエコーさんと静かに暮らすんだと思います」 「カエデちゃんも一緒に暮らせばいいじゃない。隊長も副長も駄目とは言わないはずですよ」  その先の言葉を薄々感じ取りながらも、ジャックはあえて言葉にして投げかける。  案の定、カエデは首を左右に振った。 「もちろん兄貴もエコーさんも喜んで迎えてくれると思います………ですが、私は2人の新婚生活を邪魔したくはありません」 「気にしすぎだと思うけどねぇ」  地面に向かって吐くボーマの言葉に、ジャックが2度、3度と頷く。 「元々、兄貴は今のように大勢を指揮するような目立って動くことは好きじゃぁないんです。力や能力があっても、それを見せつけることなく、逆に気の合った少ない人数で、気兼ねなく馬鹿騒ぎができる集団の中で毎日を過ごせればいいって本気で思っている人ですから」  カエデの言葉に2人は何も言い返さなかった。タイサという人物、そして王国騎士団『盾』という集団がまさに心地よい環境だったことは、同じ騎士団に属していた者からすれば全員が思っていたことだった。 「確かに、騎士という柄でも、さらにいえば一般的な騎士団長という柄でもありませんでしたね」 「だけど、あの柄だったからこそ、俺達はここまで一緒に居られたんですぜ」  ジャックの肯定、ボーマの事実、どちらも的を得ていた。  ボーマは大きく背を伸ばし、両手を頭の後ろに添える。
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