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「………まぁ、仕方ないでしょう」
溜息交じりで首を振るが、エコーの顔は赤くなっていた。
「今日のお菓子はケーキの土台部分ですね」
「………それはただのスポンジと言わないか?」
砂糖と卵、小麦粉を使っているので、ここではかなりの高級品であることには違いない。だが、思っていた物と異なる報酬にタイサが困った顔で笑みを送る。
「贅沢言わないでください。クリームを作る暇がなかったので、この集落で取れたヤギのミルクをつけて食べてください」
エコーが小皿の上に乗った黄色くて軽い穴開きのお菓子と共に、やや深みのある小皿にミルクを波立たせながら運ばれる。
「まぁ、ないよりかは………うまいな、これ」
タイサの顔が変わった。ミルクの濃厚な甘みと、それを吸い込んだスポンジが口の中で染み出し、やがて溶けていく。
「ああ、さすがは俺の副長だ!」
タイサは次々とお菓子をミルクに付けては口の中に入れていく。
「はいはい。あまり多用したら減点ですから」
子どものようにお菓子を頬張るタイサを見ながら、エコーは満足そうに頷いた。
また忙しくなる。エコーは笑みの奥にこれから直面することに覚悟を決めつつあった。
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