第四章

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「そっちはどうだ? フォルカル」  自慢の爪、赤黒い手甲を磨き終えたアモンが胡坐をかきながら手甲に息を吹きかける。そして洞窟の奥から戻ってきたバードマンのフォルカルに『おう』と景気よく声をかけ、軽く手を上げた。 「ああ、問題ない。洞窟内の部下達も概ね休息に入った」フォルカルが僅かに通って来た道を振り返る。 「………コチラモ、オワッタゾ」  逆方向から銀色の人型の魔物。顔のない人口金属生命体のバルバトスが合流する。 「それで? ここにいないうちの兎軍師は?」アモンの首が左右に動く。 「先程、司令官に呼ばれたらしい。恐らく明日の確認だろう。最後の最後まで我らの司令官は慎重のようだ」  フォルカルが両手を軽く上げ、掌を天井に向けた。  だがアモンは彼女の名前を聞くや動きが鈍くなり、彼の大袈裟な行動と発言に何も返さずに、考え込むように床岩のただ一点を見つめ始めた。 「………アモン、そっとしておいてやれよ?」 「ま、まだ何も言ってねぇだろうが!」アモンが素早く顔を上げる。  フォルカルは先のゲンテの街の戦いで新生派の側として戦闘に参加した自分の兄と弟のことを思い出し、その上でアモンに声をかけた。フォルカルの弟は戦闘の中で負傷、生きてはいるが戦意を喪失。戦闘狂だった兄は、カエデと共にその手で決着をつけてしまっている。 「オセ ノ コトカ」「だから、何も言ってねぇって」  バルバトスにまで見抜かされ、アモンが舌打ちをして口を尖らせる。 「………ただ、あいつにこれからどう接してやればいいのかと思っただけさ」  シドリーは単に姉妹を失っただけではない。3人の妹を(ことごと)くこの戦争で失い、しかもそれが自分の指揮していた軍の中で起きている。誰を責めようにも転嫁する相手がいない。フォルカルは自分の比ではないと、普段軽い口調を封じ込め、悲しみを込めた真剣な表情で言葉を降ろす。 「アモン。カノジョナラ ダイジョウブダ」  バルバトスがアモンの肩に手を置いた。 「………そうだな。俺もそう思うことにしよう」  アモンが自分に言い聞かせて割り切ろうと立ち上がる。
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