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第二章
森の奥は目を細めれば木々の輪郭が見えるほどに暗く、昼と夜の境界線、さらには生と死の境目を示しているようだった。
その森の手前、貴族や城内で使われるような上品な両開きの扉が無造作に1枚立っており、さらに扉の前では1匹のメイドを中心に合わせて十数匹のゴブリンとオークが立っていた。
メイドの手には赤い鎖の巻かれた白銀の斧が握られている。
「久しぶりだな………オセ」
森の前で止まった馬車から降りたデルが彼女に近付く。
アイナやフォースィ達もそれに続いて地面に足をつける。
「ああ、久しぶりだな………デル。もう火傷は大丈夫なのか?」
前回の戦いはブレイダスでの一騎打ち、結果は相打ちでデルも腕に酷い火傷を負っていた。
「ああ、そこの神官様のお陰だ。お陰で足を向けて寝られなくなった」
「嘘ばっかり」
デルが軽く握った手のまま、親指で後ろのフォースィを指すが、彼女は冷たくあしらい、肩をすくめて息を吐く。
そして言葉が消える。
日によって暖められた風がデルとオセ達を撫でると、オセの口が開かれる。
「我々魔王軍は貴様達との共闘を望んでいる」
「………どういうことだ? 悪いが話が見えない」デルが即答する。
ついこの前まで殺し合いを繰り広げていた相手が『共闘』という言葉を使って話しかけてくる。つまり魔王軍には人間が相手かは分からないが、少なくともデル達とは異なる集団と戦う必要に迫られている。そこまではデルにも察することができたが、それだけでは返答のしようがなかった。
デルが言葉に困っていると、オセの隣のオークが彼女に耳打ちをしている。
「………う、うるさい! お前に言われなくても分かっている」
オークがオセに小突かれる。彼女としては十二分に手加減してのことだったのだろうが、眉間のやや上を小突かれたオークは体を左右に揺らし、空を仰ぐように倒れる。
そして周囲にいた2、3匹のゴブリン達が手のひらで顔をおおい、溜め息をつきながら倒れたオークを森の奥へと引きずって行った。
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