第三章

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第三章

 集落の村長、プラウの家では互いに思うところを抑えつつ、それぞれのおかれた状況を報告を終えた。  アイナ王女やデル達は、タイサ達に王都で起きた貴族派の蜂起、そしてクライル宰相の計画について伝え、タイサやシドリー達は魔王軍で起きていた二派の対立、そしてタイサが魔王になった経緯を報告する。 「私には、もう何が何だか。雲の上のような話にも聞こえますし、大の大人が絵本のような空想の話をしている様にも聞こえますな」  デルが不在の間、集落で指揮を執っていた老騎士のフェルラントが両手を軽く広げて聞こえるように息を吐いた。 「ですが、事実として受け止めなければならないのでしょう」  デルの副官、フェルラントよりも頭1つ小さいバルデックが周囲の顔色を伺いながら言葉を繋ぐ。彼もまたゲンテの街奪還作戦の後、フェルラントと共に集落に残り、負傷者の治療とデル達の戻りを持ち続けていた1人だった。 「その通りだ。そして我々………そしてあなた方も、この話の利害は一致していると思うが」  シドリーは王女側の後ろに立つ2人の言葉に頷くと、木の椅子に腰かけたまま指を組み、互いの同盟と共闘について話に入ろうとして王女に目を向ける。  王女の傍で立っているデルは、正面で座っているシドリーの表情を静かに見続けた。 『そうか………』  デルがオセの最期をシドリーに伝えた時、彼女はデルと目を合わせることなく静かに目を瞑り、短くそう言っただけであった。その言葉はまるで自分の部下が、しかしそれほど付き合いのない者が自分の知らないところで戦死した時の声に似ていた。  魔王軍司令官という立場としてはその姿が正しいのかもしれないと理解しつつも、寂しさを感じる。デルは数十分前の出来事を思い出しながら、改めて狭い部屋に集まった陣営を確認した。
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