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第四章
「お呼びですか、大魔王様」
シドリーは1人、大魔王の前で膝をつき臣下の礼をとる。
「シドリー、顔を上げよ」「はい」
広場での定位置、大魔王はずっと同じ場所で座り続けていた。隣に立つシドリーの始祖コルティも時々何かの用事で動くことはあったが、今のようにここで不動のまま立っていることも多かった。
シドリーは立ち上がり、大魔王の言葉を待つ。
大魔王は肘掛けていた手から顔を離し、王としての姿として姿勢を整えると彼女に向けて声をかけた。
「妹の件では、済まなかったと思っている」
シドリーの体が静かに動く。
「元々オセを抜擢したのは、余がタイサにあの方法を提案しての判断だった。魔王軍の中に人間に対する不満が残っていることを早急に解消させるために取った手として相応しい役………として選んだつもりだったが、予期せぬ事態になり結果として貴重な戦力………いや、最後の姉妹をお前から奪ってしまったのは余だ」
シドリーは何も答えない。
大魔王は目を瞑り、そして再び目を開けて彼女を見つめた。
「お前には余を責める権利がある」
シドリーの体が再び揺れる。
「いえ………妹は自分の与えられた任務に納得して出発しました。決して大魔王様が心を痛められる必要はございません。そのお言葉だけで十分でございます」
「………そうか、お前は忠義者だな」
下唇を噛み、メイド服を掴む手が震えているシドリーを見ながら、大魔王は短い言葉で済ませる。
「ならばせめて、余はその忠義には答えなければなるまい」
大魔王は立ち上がり、数歩前に進むと震えるシドリーの肩の上に手を置く。
「大魔王様?」
尊敬すべき存在が自分の肩を支えている。シドリーの震えは次第に小さくなっていた。
「かつて我が友は蛮族と呼ばれていたお前達を1つにまとめ、さらに国家という社会制度を教え、与えた」
シドリーは顔を上げ、昔を思い出すように語る大魔王を見上げ続ける。
「余もそれに倣うとしよう」
大魔王はシドリーの顔に視線を向けた。
「今から余の目的を話す。その上で、今後の自分を考えるが良い」
大魔王の口が動くと、シドリーは無意識に目を大きくさせていた。
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