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それからの彼の活躍は周知の通りだ。
エースの圭一郎を欠いたチームは、それでも国体を制して二冠を達成する。彼は4試合中3試合完投、初戦ではセンバツ王者を三安打完封などというチートな成績を残した。エースの故障というまったく予期せぬ事態に、うっかり打撃投手のダイスケが7回を1失点の快投だったりで(まあそれも本当にすごいことだったが)ほとんど投手は彼一人だったから、とにかく投げて投げて四日間で400球以上。彼にしてはありえないほど失点したが、夏大ベスト16が揃った大会で、とうとう優勝投手になった。
決勝の相手は四国の超名門校、0-3でリードされつつも8回、国際大会中にデッドボールで戦線離脱したリョウタが代打で放ったヒットから一気に逆転。その後、両チームやりたい放題で結果的には8-6、相棒も自ら決勝打を放って、ようやく本当に夏が終わった。
胴上げ投手のはずなのに、試合終了直後にマウンドの中心には居なかったり(ファーストゴロだから仕方ないが、それにしても間が悪い)、記念撮影では一番端っこにいたりして、彼は相変わらず彼だったけれど。
最後の夏は負けずに終わったのだけれど。
二冠を分け合った?
相方の分も奮闘した?
そうじゃない。
彼は評価軸をひとつしか持たない。「野球」にどれだけ近いか、それが世界のモノサシになる。自分と競る投手であればこそ、彼がなにより圭一郎を尊重することは解っていた。
圭一郎がエースであるかぎり、彼はそうするだろう。
だから、圭一郎だけが知っている。自分が余計な枷を掛けて、彼に無理をさせたのだ。それこそ今後のことなど一辺も顧みずに。
そうやって彼に傷をつけて、彼には自分に傷をつけたと思わせて。
順列の一位に自分を置くよう、彼に強要したのだ。
それくらい、どうしようもなく必要だった。
彼が、居なければ、
世界と野球と自分と昨日と明日の区別がつかなかった。
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