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「なあ、地図帳ってなにが楽しいの?」
「ええっ?」
出し抜けに問えば、彼はレポート用紙に視線を落としたまま首を傾げた。
「ちょいちょい見てんじゃん。でも、基本ただの地図だろ。何度も見るくら楽しいもんなの?」
えらく傲慢な質問だ、と圭一郎でさえ思う。だがずっと知りたかったから、訊ねた。なんでもないような振りをして、どうでもいいような言い方を選んだ自分を少し、姑息だとも思った。
そんな圭一郎の意図とは真逆に、彼はけっこう真剣に悩んだ。
「そうだなあ…」
今度は逆側に首を傾け、彼は少し視線をさまよわせる。
「日本、ていうか、”ココ”が、地図帳と同じだと思ってカンドーするからかなあ」
「…は?」
「ほら、飛行機乗って窓から下、見るときとか思うだろ? 地図と同じだって」
この前、鹿児島行ったときとか、桜島が桜島の形してたじゃん。
と。なんだか間が抜けた台詞だが、彼はとても楽しそうで、圭一郎は突っ込むのを止めた。鹿児島は春の遠征先だ。
「新幹線でもさ、小田原と伊豆過ぎたら富士山で、浜名湖通って名古屋抜けて、関ヶ原過ぎたらもう琵琶湖で、そしたら京都だろ。それが地図見たら全部書いてあんじゃん。すげえなって」
思いも、しなかった答えに圭一郎は鼻白む。
「ああ、そう…」
「飛行機ッつったらあれ、ディズニーとか、上から見たらマジ、園内マップと同じだったろ?」
「み、見てない」
「飛んだらすぐ見えるだろ…?」
「寝てた…」
「…ああ、うん、そっか」
寝付きいいもんなあ、なんて相棒はあははと笑うと、タブレット貸して、と言った。
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