いちばん

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 ちょうど一年前、彼に傷をつけた。  秋季関東大会準々決勝、ここで勝てばセンバツ当確の大一番で、先発を任されたのは相棒だった。相手も相応に実力のある好投手で、県大会を自責点1点台でくぐり抜けてきていた。  試合は大方の予想通り投手戦になった。  今年ほどではないが、新チームの始動が遅くなった分、うちのチームにも隙があった。とは圭一郎も思っている。しかしそれ以上に敵は強く、自分たちが弱かった。相手投手を打ち崩せず、エラーも絡んで失点、こちらは犠飛で追いつくので精一杯。1-1のまま延長戦に突入、相棒は続投し、迎えた13回裏、一死二塁。  決め球のスライダーを代打に痛打され、白球がレフトの頭上を越えたとき、彼はマウンドに蹲った。  その背に手をあて、大丈夫だ、お前のせいじゃないと、何度もなんども囁いたのは圭一郎だ。それでも彼の涙は止まらなかった。  涙で顔が上げられず、ベンチに帰ってこられなかった彼は、俺のせいだと繰り返した。  違う。  彼のせいではない。  見殺しにした自分たちのせいだ。   あの時、リリーフできていれば。   あの時、エラーさえなければ。   あの時、打てていれば。    どうしようもない悔恨は楔となって、このチームに残った。一点。たった一点を取り返すための…  夏だった。  今度こそ、彼に報いなければならない。  圭一郎は一層、練習に力を入れた。苦手な走り込みも積極的に取り組んだし、食生活にも徹底的に気を配った。  ニ失策だった遊撃手のトオルは試合後、本当に発熱して二日寝込んだ。それからの日々の努力には誰もが一目置いている。  そしてチームの全員が冬から振りこんだ結果が、夏の県大会4試合連続コールドゲームだ。決勝では長年のライバル校、東の横綱相手に二本塁打、8得点をもぎ取った。  一方、相棒は秋の大会後に腰を痛め、冬から春にはかけてはほとんど投げられなかった。春季大会から復帰、ぎりぎり夏に間に合ったが、球速も球威もベストの状態には及ばない。それでも制球を磨いて白星を重ね、圭一郎と交互に登板し、激戦の県大会を投げ抜いたのだ。  そうして、圭一郎のチームは聖地に辿り着いて、ようやく、  彼に報いる日が来た。
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