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うだるほど暑い日だった。
聖地の中心は殊更に暑く、ただ立っているだけでも酷く消耗した。準々決勝第三試合、先発したのは相棒だった。同じ地域の強豪校、練習試合も組んだことのある相手との相性を見込んでのことだが、それが凶と出た。
決め球の変化球を狙い打たれ、修正が効かない。猛暑と大観衆の中でのトーナメント戦は想像を絶する過酷さで、自分たちを容赦なく削り取っていた。直球の球威もキレも見る影もない。
それでも野手陣はなんとか三回に先取点を挙げたが、次の回にあっさり追いつかれる。安打はぽつぽつ出るが、なかなか得点に結びつかない。足を使った攻撃も空回り。狂った歯車は元に戻らず、とうとうバッテリーエラーで逆転を許し、彼は降板した。
そして、まさに満を持して圭一郎はマウンドに立った。
恐らく40度は超えていただろうその場所で、彼から白球を受け取った。「たのむ」と、絞り出すような声に確か、「まかせろ」と応えたはずだ。劣勢の中での継投はこの夏初めてだったが、むしろ圭一郎はチャンスが来たと思った。
彼を、否、このチームを救い、ひいては頂点を獲るチャンスだと。
野球は流れのスポーツだ。優勝候補を追い込んでいる手応えがある相手には勢いがある。それは確かな力となってこちらを押してくる。それを跳ね返すのがエースの役割だった。
調子は万全とは言いがたかったが、圭一郎自身としては恐らく、この夏一番、納得のいく投球が出来たと思う。
流れをこちらに引き戻し、暑さと緊張で相手チームに出たミスに乗じて、8回裏にキャプテン、タカヒロの犠飛でようよう追いつき、彼の黒星を消す。そして迎えた9回裏、二死一、二塁。皆の祈りが通じたトオルのタイムリー。まさに起死回生。
後攻で本当によかった、と、圭一郎はそっと冷や汗を拭ったものだ。
しかしそんなことはおくびにも出さず、同点の場面から泣き出した相棒に、今度こそ「大丈夫だったろ」と笑い飛ばした。
あの時、とうとう、
このチームは彼に借りを返したのだ。
そう、それで終わっていれば、ただの美談だったのに。
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