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夏大後、圭一郎は国際大会の選抜メンバーに選ばれた。
リョウタとトオルも一緒だ。今年は日本開催で、つい先日、アホみたいな酷暑と青空の下で投げきったマウンドに再び戻ることになった。
もちろん、甲子園は同じ場所とは思えないほど違っていた。大学野球選抜との壮行試合や、初めての国際試合に、それはびっくりするような経験を積んだ。一週間前は対戦相手だった連中ともチームメイトになり、全く違う世界が開けたような、感覚。
特に同級生のピッチャーがたくさんいるという状況が新鮮だった。なにせ圭一郎のチームには同級の投手は相棒しかいなかったから。いや、いなかったというか、投手のレギュラに残らなかったのだ。
「そりゃそうじゃね? 柳澤と小林が居て、それでもピッチャーやりたいって言えないだろ。オレも無理かも」
と、名門校のエースでキャプテンにはカラリと笑われた。
そうだったのかもしれない、と圭一郎は少し考えてみる。
自分たちは「番外」だったのかもしれない。
ただ、それくらいイレギュラだったとしても、他に有り様がなかった、とも、思った。
二週間超に及ぶ国際大会は結局、準優勝に終わる。戦果としては本当にあと一歩、個人的にはあと二十歩ほどの内容だったが、得るものは多かった。そして何より、最後の夏が終わった(国体はおまけだ)という感慨に、ようやく圭一郎はほっと息を吐いて、
古巣が懐かしくて堪らなくなった。
新幹線の中でも駆け出したくなるくらいに。
こんなにもチームメイトと、彼と、離れていたのは初めてだった。
練習の厳しい体育会系の部活動に休暇はほとんどない。更に寮生であれば生活と部活は不可分だ。圭一郎たちの硬式野球部も、365日のうち完全な休みは年末年始とチーム入替のときの数日間ほど。それは覚悟の上というか当たり前だったが、つまり相棒のいない毎日が三日以上続くのは二年半ぶりなわけで、非日常が閉じたその瞬間、圭一郎は猛烈に…「足りない」と思ったのだ。
思わずスマフォを手に通話しようとしたところで、あと数時間じゃねえかと自分で突っ込んだ。そして気の遠くなるような数時間を経て学校に戻ると、荷物を置くのもそこそこに彼を探しに行った。道々ですれ違うチームメイトたちに軽く挨拶しながら、圭一郎はなんでもないような顔で投手陣の居場所を確認する。逸る心をなだめすかし、走らないでいるのにもけっこうな努力が必要だったことも、見ない振りをした。
なのに、トレーニングルームにいた彼の名を呼んだとき、思いもしなかったことが起こった。
「おかえり」
その声を聞いた時、圭一郎は衝撃に息が詰まった。振り返った彼の貌は柔らかく、すっきりとしたいつもの顔だったのだけれど、ただ… 言葉が違った。
相棒は西の出身だから本来、あちらの言葉を喋る。ただ圭一郎達のチームはあまり関西出身者が多くないし、監督の方針という訳ではないが、どこの出身であっても基本的には皆、標準語を使う。だから、彼の関西弁もめったに聞くことはないが、たまの帰省のあとやあちらに遠征するときに「戻る」。もちろんすぐに解けてしまうけれど。
だから今回もなんの不思議もないことで、僅かなゆらぎのはずだったのだが、
圭一郎はそれが、嫌でたまらなかった。
何故か?
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