いちばん

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 そこで唐突に、圭一郎は気がついた。  三年の夏が終わったということは、もう「部活」が終わったということだ。  圭一郎他二人の選抜メンバー以外はまとまったオフになったから、相棒やマサハル、エイジなどは長めに帰省しただろうし、少しは夏休みらしい休みになったはずだ。寮生でも、通える距離に自宅があるメンバーは退寮する場合もある。  夏大終了から優勝報告会、選抜チームの結成式など分刻みで進む過密スケジュールの中、「じゃあ行ってくっから」と慌ただしく旅立ってきたから失念していたが、今回ばかりは違う。  そう、そこに至ってようやく、圭一郎は気付いたのだ。  次の試合はもう、ない。  ふたり、ブルペンに並んで肩をつくることも、  攻守交代の合間に彼から、水のカップを受け取ることも、  マウンドで彼から白球を受け取ることも、  ハイタッチを交わして、グラウンドの中央に整列することも、  隣に並んで校歌を歌うことも、  試合後に二人、ダウンのキャッチボールをすることも、  もう、二度と無いのだ。  夏大のあと、インタヴュで彼は「今度は柳澤と対戦したい」と繰り返した。  留守中、彼からLINEが来た。「三年間ありがとう」と言ってきた。  そのときは不思議にも不安にも感じなかった。まあそうだろうな、とか、自分としてもやぶさかではない、ぐらいの気持で「そうだな」と笑って頷くくらいだったのだが、それは単に圭一郎が気付いていなかったからなのだ。  彼はそれを、知っていた。  じぶんはしらなかった。  気付かなかった。  その差は歴然として遠くて、とおくて。彼に何を言えばいいか、何をしたかったのかも思い出せず、ただ、彼の笑顔に曖昧に頷いて… 圭一郎はまるまる三日間、相棒と喋ることが出来なくなった。
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