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 ボクが朔夜ちゃんから蝙蝠傘を借りたのは、今から約八年前。ボクがまだ、"ハリセンボンのるか"と呼ばれていた時のことだ。  なんで、ハリセンボンなんて呼ばれていたのかというと、それはボクが兎にも角にも、約束を守れないからだった。  ほら、約束をする時のゆびきりでも口ずさむじゃないか。ハリセンボンって。  ――るかとの約束は必ず破られる。  ――るかは約束を守れないし、果たせない。  ――約束すると誓ったのに、嘘をつく。それも、一度だけでなく何度も。  ――親でも、先生でも、友達でも、誰が相手だろうと関係ない。どんなに易しい約束も、るかは破ってしまう。  約束を幾度と言わず破ったから、とうとうボクは周りの皆から"ハリセンボン"と呼ばれるようになったってわけ。  弁明ってわけじゃないけれど、ボクだって、わざと約束を破っているわけじゃない。  ボクは約束を守ないのではなく、守ないようになっているんだ。  ――難儀なものでね、るか、お前さんの約束破りは体質なのだよ。    これは、お前さんが呪いよりもたちの悪い、天罰を科すされているからだ。その動かぬ小指が天罰の証さ。    どうしてこんなことになったかは、残念ながら知れないが、恐らく、一生治ることはない。  いつだったか、約束をまた破ってしまった、ハリセンボンと呼ばれて怒られた、と泣くボクにこう告げた人がいた。それは、この世の不思議をいくつも知っているボクのじいちゃんだ。  けれども、本当にボクの約束破りがどうしようもない体質だとしても、ボクの周りにいる人達が、それならば仕方がない……とボクを許してくれるわけがなかった。  約束というのは、なにも将来のことについて取り決める為だけに交わすものではない。それを守ることで危険から身を守る術を得られるし、それを果たすことで他者の信用を得ることだってできる、人がこの世に生きる為に必要なものだ。  だから、ボクの周りにいる大人達は、ボクが約束を守ったり果たせるように、心を鬼にしてボクに強く言いつけ、時に、キツく叱った。  勿論、ボクも約束の大切さは理解していたから、なんとか約束を果たすよう頑張ったさ。  けれど、結果は惨敗。  約束をした相手から毎度のように叱責されたボクは、泣きながらこの難儀な体質の唯一の理解者であるじいちゃんを頼って、彼の営む古書店に向かうのが、幼い頃のボクの定石となっていた。
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