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 それが、ハリセンボンなボクと魔法使いな朔夜ちゃんの出会い。  今でこそ、気のおけない仲の二人だけど、出会ったきっかけが傘の持ち去りなだけに、よくもまあ、ここまで仲良くなれたものだと我ながら感心する。  そうそう。今、ボクが差しているこの蝙蝠傘は、あの日、ボクらを引き合わせた傘そのものだ。  何で、ボクがこれを所持しているのかと言うと、彼女から借りているから。  あの日、桜の木から降りて、傘を無断で拝借したことをボクが謝罪すると、彼女は快く許してくれて、その後にこう告げた。 『あなたが必要とするのなら、そのカサをあなたに無期限で貸してあげる。それで空を飛ぶ練習をしてもかまわないけれど、傘が折れた時は返してもらうからね。約束よ、るうちゃん』  約束破りであるボクに、朔夜ちゃんはこんな約束を取り付けたのだ。  約束した時には既に、ボクは傘で空を飛ぶ練習を止めるつもりだった。  ハリセンボンと呼ばれる現実と、約束破りのこの体質を少しでも忘れていたくて……逃げのつもりてやっていたことだから、逃げないと決めた後は、傘で空を飛ぶ理由も練習の必要もないからね。  そんなわけで、空を飛ぶこともその練習のせいで傘を折る可能性もなくなったあの日から今現在も、朔夜ちゃんとの約束はありがたいことに履行されないままなのである。 「ねえ、朔ちゃん。良ければ、その傘をボクに預けてみない? 折れた骨を直せないか試させてよ。これでもボク、傘の修理に関しては自信があるんだ。一時は、折れた傘を十本以上直していたんだから、腕には自信があるよ!」  ドヤ顔で「任せて!」と胸を張ると、それまで浮かない顔をしていた朔夜ちゃんが、表情を一転して笑い出す。 「そうね、るうちゃんに任せようかしら。じゃあ、傘を一旦交換ね」  ボクが差している蝙蝠傘と、朔夜ちゃんの紫陽花の傘。  それらを交換した瞬間、ボクの脳裏にある疑問が過ぎる。  ――折れてはいない蝙蝠傘を朔夜ちゃんに一旦返したら、彼女との約束はやっぱり果たせなかったことになるのかな?  久方ぶりに朔夜ちゃんの手許に戻った蝙蝠傘と鳥のチャームを見て、思いついたんだ。  まあ、わりとどうでもいいことなんだけどね。 「大丈夫よ、るうちゃん。そんな寂しそうな顔をしないでよ。この傘ならまた貸してあげるから」  なんでもお見通しの朔夜ちゃんは、真っ黒な傘の陰で、あの魔法使いに引けを取らないミステリアスな雰囲気抜群で、にっこりと微笑んだ。
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