83人が本棚に入れています
本棚に追加
最も遅い梅雨入りだ、という通知がスマホ画面に表示される。一瞥した一椛は盛大にため息をついた。
雨は、きらい。
誰もいない教室の窓からは、いまにも泣き出しそうな空が見える。まだ夕方には早い時間帯だというのに周囲はすでに薄暗かった。
一椛は、書きかけの学級日誌を閉じると、机に突っ伏して目をつむる。遠雷の音とともに、窓を叩く水音をどこか遠くで聞きながら、うつらうつらとしていた。
晴れていれば、二階にあるこの教室からは、サッカー部の練習を見ることができた。
一椛のお目当ては、ひとつ年上の幼馴染の颯真だ。ゴールキーパーをしている彼の姿を眺めるのに、この場所は最適だった。
今日は、颯真、見えへんかったな……。
幼馴染と言っても、ひとつ年上の彼とは校舎も違うため、ほとんど会うことはない。たまに会っても、素っ気なく挨拶を返されるぐらいだった。
大人になると忘れがちだが、学生時代の年齢差は、国境ぐらい確かな線引きがある。
最初のコメントを投稿しよう!