彼と私の6cm

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そのため、最近では母親の方が彼の近況をよく知っている。トレーニング選抜メンバーに選ばれただの、どこどこに遠征に行くなどと、一椛(いちか)よりずっと詳しいのだ。 昔は、隣同士お互いの家をよく行き来していた。颯真(そうま)は、どちらかと言えば寡黙(かもく)なタイプで、感情を表に出さないことが多い。一見ぶっきらぼうに見えるのだが、本当はとても優しい。 飼い猫のミケがいなくなったときには、何時間も一緒に探してくれたし、「もう戻ってけえへん」と言って泣き続ける一椛の背中を無言でずっと撫でてくれた。 手間のかかる面倒な妹だと、彼はわずらわしく思ったのだろう。中学生になった頃から、顔を合わせるたびに目を逸らされるようになった。 さすがに高校生になったいまは、そこまであからさまな態度ではないが、「近づくな」という姿勢は崩さない。 そのため、この教室の窓から練習中の彼を眺めることが、一椛の唯一の楽しみだった。 ──だから、雨の日はきらいなんや。
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