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いつの間にか完全に寝入ってしまっていた。
激しい雨脚が窓を叩く音に意識を浮上させると、あたりは真っ暗だった。
いま、何時やろ……。
スマホを確認しようと手を伸ばしたとき、ふと前の席にだれかが座っていることに気づいた。
「やっと起きたか」
やや低めの声。一椛の心臓が跳ねた。目をつむっていても、聞き間違えることはない。
「颯真……」
とろんとした目で、甘えるよう名を呼べば、彼の頬に朱色が走る。
「おせーよ」
そう言って、目を逸らす。胸がキュッと締めつけられた。
「……ごめん」
反射的に謝って、一椛はうつむく。彼と会えた喜びと、素っ気ない態度への悲しさで、頭の中が混乱していた。
「いや、そういうわけやなくて……」
なぜか颯真もひどく焦っている。彼はわずかに逡巡した後、ガシガシと頭を掻いてため息をついた。
「……家、帰ろや」
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