83人が本棚に入れています
本棚に追加
シンプルな誘い文句に、一椛は頬を上気させ大きくうなずいた。一緒に下校するなんて、小学校の集団下校以来ではないだろうか。
隣家といえど、朝練・夕練がデフォルトの颯真と時間が合うことは皆無に等しい。年齢という壁以外に、サッカーという障害が立ちはだかっていた。
「お前の帰りが遅いって、うちのオカン経由で、連れて帰れコールがきた」
ずいっとLINEのトーク画面を見せられて、一椛はコクコクとうなずいた。
──お母さん、ナイス。
雨が降ったから颯真の姿が見えないと嘆いていたはずなのに、そのおかげで一緒に帰ることになるとは、なんという幸運だろう。
雨脚は衰える気配は見せないが、彼といられるなら、それは些細な問題だと一椛は思った。
「日誌、先生に渡してくるから、玄関で待ってて!」
ちゃんと待っててね、と念押しをして、彼女は教室を後にした。うれしくて足が地面についていないような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!