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なにしてくれますのッ!!?? とツッコむ。もちろん、心の中で。
混乱。狼狽。当惑。
一椛の脳内は、大パニックだ。
「ほら、さっさと歩け」
颯真の体温を感じて、顔から火が出る思いをする。いっぱいいっぱいで泣きそうだった。
そんな一椛の心境など知らない彼は、肩を抱いたまま歩き出す。
「……颯真、離してェ」
恥ずかしくて、心臓が壊れそうだ。
泣きそうな声で訴えると、颯真の瞳が揺れる。彼は「わかった」と短く答えて、左肩を抱いていた手を離した。
雨はザーザーと音を立てて降り続けている。それなのに、傘の中はシンと静まり返っていた。
一椛は、少しだけ颯真から離れる。距離にして6cm 。これ以上近づけば、間違いなく心臓がオーバーヒートする。
ブラウスの左肩部分が濡れていたが、火照った身体にはちょうどよかった。
「……じゃあ、帰るぞ」
素っ気なく言って、颯真が再び歩き出す。一椛は無言でうなずいて隣に並んだのだった。
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