エモーショナル・アンブレラ

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*  明くる日も、俺と彼女はこの中庭で話をする。時が経つにつれ、話題は広がり、最近は趣味の話までするようになった。  零は、いつだって傘を差している。晴れの日も、雨の日も。  彼女は、物語の登場人物のような浮世離れした一面が多くあった。もちろん姿だってどこか現実離れしたような雰囲気がある。近寄りがたささえ感じるのに、どうしようもなく惹かれるのは何故だろうか。 「……『あの子』とやらには会えたのか?」 「会えていないわ」 「探しに行ったりはしないのか?」 「もちろん探しているわ。あと少しなのだけれど、どうしても見つからないの」  この会話をするのはもう何度目か。彼女ほどの美貌を持つ人間がここまで恋い焦がれるだなんて、『あの子』は一体何をしたのだろう。俺には想像もつかない。 「……そうか、見つかるといいな。俺も実は探している人が居て、零と同じようにずっと探し続けてるんだ」 「その人は見つかった?」 「いや、全然。どこに居るかも今いくつなのかも知らないから探しようもないんだ」  目を閉じ、回想してみる。そうすれば、魔法にかけられたみたいな些細な幸福感が漣のようにおとずれる。脳裏に広がった眩い青空が、今もまだ笑っていた。  あの時出会った少女は、今どこで何をしているのだろう。俺よりも年上なのは間違いないから、とっくに社会に出て働いているはずだ。そうなると、とっくに引っ越している可能性もあるし、彼女を見つけるのは雲を掴むような話だろう。 「お互い見つかるといいわね」 弧を描いた艶やかな唇がそう紡ぐ。彼女の長い黒髪が反射する傘がくるりと回った。 「あぁ、そうだな」  そう答えて俺は夏風に揺れた彼女の長い髪を見つめた。  ……そういえば、あの子も黒髪だったな。ちょうど、零みたいな。  だが、零とあの子では年齢が違うし差している傘も違う。それなのに、零があの時の少女であるような気がしてならない。もちろん、ありえない話だが。  俺は、零をあの時の少女と重ねてしまっているのかもしれない。
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